※本稿は、北村俊雄『東大名誉教授が教える 死なない生き方』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
“全てを覚えていること”は不可能
記憶を保ち若さを保つためにはどうすればいいか、身近なところから考えてみよう。
記憶や情報は、どうしても削除されていく。それを全て保つことは不可能だ。なぜなら、限られたスペースに保存できる情報には限りがあるからだ。
新しい記憶や情報を脳に入れるためには、昔のことを忘れる必要があると考えると、気が楽だ。若さを保つためには、過去への後悔や、現在の諸問題をくよくよと考えるのではなく、未来への希望について考えることが大切だと思う。本稿では、記憶について科学的な側面から説明し、高齢になっても知力と記憶力をできるだけ保つためにはどうするのが良いかを紹介する。
記憶力や学習能力の低下は、高齢では避けることができない。思考することが仕事である科学者にとっても、脳の健康は死活問題だ。
もし脳の能力を若い時の状態に戻すことができる方法があるなら、まず私が教わりたいぐらいだ。それでも、可能な限り脳の劣化を防ぐことは訓練次第だと考えて、いくつかのことを実践している。ここではその方法を紹介したい。
「脳の引き出し」を時折チェックしてみる
年齢を重ねると、人や物の名前が思い出せないことが多くなる。そんな時、私は調べずに思い出すようにしているが、いつも不思議に思うことがある。一生懸命思い出そうとしている時には思い出せず、諦めた頃にふと名前が浮かぶことが多いのだ。その時、脳の中で何かがつながる感覚がある。
脳が活性化され、失われかけた回路がつながったと考えると嬉しい。私に限らず、同じような経験がある人は結構いるようだ。
本書にも記載したように、記憶を保つためのサプリメントも販売されている。だが、サプリメントより効果があるのは脳を使うことだ。
記憶力が人並み外れた私の友人は、時間がある時に、頭の中のたくさんの引き出しに何が入っているか、一つずつ確かめるそうだ。彼は普通のアメリカ人よりはるかに多い英単語を知っている。
私は若い頃から記憶力にはあまり自信がないし、最近はますます怪しくなってきた。ただ、考えることは好きなので、研究のこと、趣味で書いている小説のストーリーのこと、音楽のことなど、エレベーターに乗っている時間、バスを待っている時間などのスキマ時間にはいろいろと考えるようにしている。そして考えることが脳を刺激し、脳の老化を防ぐと期待している。