「1日30~40分の早歩き」で海馬が大きくなる

先日、1日に30〜40 分早足で歩くと、海馬が大きくなるという論文を知り合いの著名な脳科学者から教わった。読んでみたところ、アメリカの権威ある雑誌に掲載された、運動療法や認知症で有名な研究グループから発表された信用できる内容の論文だった。

(Kirk I. Erickson, Michelle W. Voss, et al.「Exercise training increases size of hippocampus and improves memory」)

ウォーキング
写真=iStock.com/AJ_Watt
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海馬は脳の中心にあり、記憶を司る場所である。論文では、ルームランナーで徐々に歩行速度を上げていく群と、ヨガやストレッチ、バーベルなどを行う対象群で、開始前と6カ月後、1年後に脳を調べている。いずれも運動は週に3日、40分程度の時間だ。対象群は年に約1.4%海馬の体積が減少した。これは50歳以上の人の標準である。

一方、早足歩きを1年間続けた人の海馬の体積は2.0%も増加したというのである。これは驚きの結果と言える。記憶と学習能力の向上に役立つことが知られている脳由来の神経栄養因子も増加し、記憶も改善したという。この話を聞いてから、毎日早足で歩くことを意識している。

神経栄養因子の増加は対照群に比べて有意な差はなかったが、早足で歩いたグループでは、記憶力の向上と神経栄養因子増加に相関があったことから、運動によって神経栄養因子が増加して、記憶力が改善したと結論している。

運動によって血流が良くなり、海馬のサイズが大きくなり、記憶力が改善することは以前からマウスやヒトで報告されていた。

今回の論文では、運動によって海馬の体積が増加するが、増加するのは海馬のうち記憶の固定に重要とされている前部だけであり、脳の他の部分の体積も変わらなかったという。

記憶は“断片的なもの”

人や物の名前が思い出せないというのは、具体的に思い出す必要があるからだ。一方では、気がつかないうちに欠落する記憶はたくさんあるだろう。記憶の一部がどんどん欠落していき、最終的にはとても断片的な記憶しか残っていないことは、次の話でお分かりいただけると思う。

古い友人と話した時に、一緒にいたある日のことをよく覚えているという意見が一致した。

「そうだ、あの日はとても印象的な日だった」と2人で懐かしがったのだが、驚いたことに、というより興味深いことに、その日のことで覚えていることが全く重複しないのである。

つまり私が印象的だったその日のことを語っても、相手は「そんなことあったかな」と言い、逆もまたしかりである。その日が、2人が覚えている程度に2人にとって印象的な日であったことは間違いないのだが、お互いの記憶に残っている部分は全く違っていたのだ。それだけ、記憶は断片的だということだ。