夜な夜な保育園で開かれる保護者の宴
熊本市東区にある「やまなみこども園」で、保護者が子どもの成長と、自分の親としての成長を願って保育に参加する文化があることは本書で述べてきた通りだ。こうした保護者の中には、園を実家や親友の家のように捉えて、気ままに訪れる人も少なくない。
夜な夜な園で開催される飲み会がその典型だ。
仕事を終えた保護者がビールや缶酎ハイ、それに焼酎のボトルを手に園にやってきて、夜更けまで顔を赤らめて語り合うのだ。
園には保護者会や各種行事の実行委員の集まりをはじめとして、運動会やキャンプの準備など複数の保護者が集まる機会がたくさんあり、保護者たちはそれを理由に頻繁に宴を開いているのである。
コロナ禍以降、全国的に多くの園で保護者会への参加者が激減し、謝恩会をはじめとして多くの会が縮小・中止に追い込まれる傾向にある。だが、やまなみこども園の保護者たちが未だに親族のように親しく付き合うだけでなく、あえて園の中で宴会をしようとするのは、彼らを結びつけるシステムがあるからだ。
“認可外”ゆえの財政格差に対する連帯意識
これには、やまなみこども園が開園当初から認可外保育園として運営されてきたことが関係している。
国や地方自治体は、施設の構造や保育士の配置など一定の基準をクリアした保育園に対して「認可」を与え、多くの補助金を支給したが、財源が限られていることもあってその数は限定的だった。そこで第二次ベビーブームで保育需要が高まった1970年代に、認可園からあぶれた子どもの受け皿として急速に増えていったのが認可外保育園だったのである。
その形態は様々で、マンションの一室に子どもを押し込んでいるだけのようなところもあれば、やまなみこども園のように一般的な認可園よりはるかに高い評価を受けているところもある。
認可外保育園に共通する弱点は、補助金がないために経営が苦しいことだ。やまなみこども園と同規模の認可保育園を比べれば、2~3倍の財政格差があるので、そのままでは保育の質の低下を招くことになる。そのため、保護者が中心になって資金集めを手伝ったり、人手不足を補ったりしてきた。
この時に役に立ったのが熊本でつづく、酒を酌み交わすことで親睦を深める文化だ。熊本には江戸時代から赤酒が「御国酒」として保護されてきたり、お互いに酒を注ぎ合う「献杯・返杯」の文化があったりして、酒がコミュニケーションの道具となってきた。
園でも、それを受け継いだ人たちが、飲めても飲めなくても、気軽に宴会に参加することで連帯感を高めていったのだ。