アップル社で繰り広げられる恐怖の会議

穏やかな朝の習慣とは裏腹に、会議室でのクックは別人だ。2020年、米経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルが報じた社員たちの証言から、厳しいリーダーとしての一面が垣間見える。

元アップルのオペレーション担当幹部のジョー・サリバン氏は、クックとのやり取りを同紙にこう振り返る。「最初の質問は『今日何台生産した?』でした。『1万台です』と答えるとクックは、『歩留まりは?』『98%です』。すると間髪を入れず、こう来ました。『98%か。では、残り2%が不良になったのはなぜ?』」

質問を通じて細部まで追求するスタイルは社内に波及し、全員がクック化していくのだという。クックは着任初日からそうだった。1998年、アップルに加わったその日、最初の会議は11時間に及んだ。

アントレプレナーによると、現在でも週次のオペレーション会議は5〜6時間に及ぶことがあるといい、あまりの長さに「マラソン的」との声も漏れ聞こえる。

アップルのオンラインストアで責任者を務めたマイク・ジェーンズ氏はこう語る。「何時間経っても、質問は止まりません。『次のページ』と言いながら、また新しいエナジーバーを開けるんです」。ジェーンズ氏と同僚はこの日、MLBニューヨーク・メッツのチケットを持っていた。「言うまでもなく、試合は見逃しましたね」

わずかなミスも許されない

社員たちは鋭い質問に恐怖し、試験前の学生さながらの準備体制で会議に臨むようになった。納得のいく答えが返らなければ、クックはただ沈黙し、答えに窮したチームとの間に気まずい沈黙が降りる。会議室にはただひたすら、エナジーバーの包装を破る音だけが響く。

他の部署の電気は消されている時間帯のオフィスでのミネーション
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彼が求める水準に妥協はない。かつて日本向けのコンピューター25台が、誤って韓国に届いたことがある。iPhoneなら年間約2億台を出荷する企業で、たった25台の誤出荷だ。それでもクックは、「卓越(excellence)へのこだわりを失いつつある」と激怒した。

ミーティングでは発表者の準備が足りないと見るや、資料のページをめくりながら、「次!」の一言で切り捨てる。側近は、「泣いて退室した者もいる」と明かす。

冷酷なビジネスリーダーの顔を持つクック。やり方は違えど、アップルへの愛という意味では、ジョブズに劣らない。前任のジョブズの命が風前の灯火となったとき、彼は迷うことなく行動に出た。

膵臓がんを患ったジョブズは2009年1月頃になると、自宅のベッドから離れることも難しくなっていた。転移した肝臓がんの副作用で腹水がたまり、腹部は腫れ上がっていた。迅速な肝臓移植が求められた。