文化の名の下に扇動された暴力
本稿のまとめとして、中国的暴力の特徴に再度、言及しておく。いま見てきた数々の暴力は、やはり文化の名の下に扇動され、醸成されてきたものだ。
言慧珠のようなモンゴル人貴族出身の伝統的京劇俳優を舞台から追い出し、中国の古い歴史ストーリーを京劇の脚本から削除し、多くの芸術家たちを死に追いやった江青夫人は、毛沢東の思想を受け継いで真新しい革命演劇を創り上げた。
その演劇も同じく毛の指示どおりつくられた、階級闘争論に基づく演劇である。その意味で江青は、たしかに文化の旗手の役割を見事に果たしたわけだ。
実際、階級闘争論は演劇のかたちで無学かつ識字率の低い農村に伝播し、宣伝力を発揮した。革命にきわめて大きな影響を与えた毛の『湖南農民運動考査報告』どおりの革命理論が浸透し、農民たちの実践により実現したことになる。
また農山村だけでなく、知識界・文芸界からも階級の敵が一掃された。1966年1月1日の国慶節から、京劇『白毛女』は江青の指示で北京京劇団が担当し、中国各地で公演を実施しはじめた。『白毛女』は全国的なヒット作になった。いわば官製ブームである。
ここから1年にわたり、人民は8つの現代革命劇しか見られなかった。そしてこの中国流プロパガンダが国境を越えて日本の左派芸術と結合し、全世界に伝播していく。欧米でも、サルトルなどのニュー・レフト(新左翼)知識人が絶賛し、一般市民にも大きな影響をもたらした。地主階級はすでに消滅していた
しかしながら、事実として毛沢東が反革命分子のレッテルを貼った地主階級はすでに1940年代以降に衰退し、1966年にはほぼ消滅していたと考えられる。にもかかわらず「地主を殺せ」「子弟も復讐を防ぐために殺せ」と訴えるのは、もはや空論にすぎない。
そもそも当時、地主の子弟たちには、毛の考え方に突き動かされる農民に復讐するような力は残っていない。実態はむしろ、意見の異なる農民同士の殺戮を正当化する論理として毛沢東思想が使われたと見るべきだろう。
研究者たちも、むしろ漢族が漢族を殺戮した中国的ジェノサイドは、国家が設定した「階級」という枠組みで発動されたもの、いわば国家政策によるジェノサイドだと考えている。
そして、加害者も被害者も毛沢東信者の一般の中国人であるところに驚嘆すべき特徴があるといえる。
言い換えれば、この種の中国的暴力は少数民族地域では発生しなかった。少数民族が受けた被害も、もっぱら中国人民すなわち漢民族からのものだった。


