現代における「ユリシーズの契約」
【木村】「それを現代の貯金に応用できるんですか?」
【教授】「もちろんだ。ある友人は給料が振り込まれると、自動的に一定額が別口座に移るよう設定している。その口座のカードは金庫にしまい、普段は使えない。つまり、未来の“浪費する自分”を、今の仕組みでマストに縛り付けているわけだ」
【木村】「給与天引きの積立預金も同じですね。最初から手元に残らないから、使いようがない」
【教授】「その通り。ほかにもやり方はある。たとえば大きな買い物をするときは必ず翌日以降に決済する“ワンクッションルール”。あるいは使いすぎ防止アプリで一定額を超えると自動通知が来る仕組み。中には、友人や家族に『今月3万円貯金する』と宣言して、達成できなければ罰金を払う制度を作っている人もいる。すべてがユリシーズの契約だ」
誘惑にアクセスできない環境が大事
【木村】「誘惑に出会ってから我慢するのではなく、そもそも誘惑にアクセスできない環境を整えるんですね」
【教授】「その通りだ。人間は未来を必ず割り引いてしまう。だから精神論ではなく環境設計で戦う必要がある。財布に現金を多く入れない、クレジットカードを持ち歩かない、買い物アプリを削除しておく……。これらはすべてマストに縛り付ける工夫だ」
【木村】「確かに、給料日直後の浮かれた気分では冷静に判断できません。仕組みが自動で縛ってくれるほうが安心です」
【教授】「そうだ。双曲割引に抗うには、自分の弱さを受け入れ、それを前提に仕組みを作ること。未来の自分が誘惑に負けないように、今の自分が舞台を整えてやるんだ」
