「工事が半分終わったところで、業者がもう来なくなったんです。『外に出るのは危ない』と言って。スペイン政府から規制が出たわけじゃないのに」

物件の家賃も工事費もオーナーが支払っている。後には引けなかった。何度も業者を説得し、工事を再開させた。2020年7月、宅配のみという異例の形で開業した。

「初めてのフランチャイズだから成功させたかった。もう無理やりでした。でも、やるしかなかった」

フランチャイズ第1号店は初日から好調だった。口コミで加盟希望者が広がり、「当初は10店舗できればいいな」という小野田さんの想定を超え、気づけば25店舗に増えた。自分たちもついていけないスピードだったという。

2023年には工場を1300平米の新拠点に移設し、現在30人が働いている。毎月スーパーバイザーチームが各店舗を巡回する。まだ理想には届かないが、完璧を目指す努力は止めるつもりはない。その終わりのない改善を続けるのは、25店舗を預かる経営者の責任があるからだ。

「Kaguraかぐら」と「Kurayaくらや」のネオンサイン
筆者撮影
グループが展開する2ブランドのロゴ。左が鶏白湯の「らーめんくらや」、右が豚骨の「らーめんかぐら」

人を「型」にはめるつもりはない

ただし小野田さんの「完璧を目指す」は、スタッフに完璧を求めることとはまったく違う。仕組みで品質を支え、無理に人を型にはめようとはしない――その姿勢の背景には、スペインに来て間もない頃の、ある経験があった。

2007年、スペインに来て2年目。配達員として働いていたある朝、いつものように目覚まし時計が鳴った。「仕事だ。起きなきゃ」と思った。しかし、小野田さんの体は動かなかった。

「突然でした。前の日まで何の症状もなく普通だったのに、急にベッドから起き上がれなくなったんです」

異変に気づいた妻が会社に電話し、仕事を休んだ。翌日も動けず、妻に担がれながら病院へ行った。診断は、うつ病だった。精神科医からこう告げられた。

「自分の言語を話していないことが原因です。日本人のコミュニティに行きなさい」

当時はマドリード郊外に住み、日本人との接点はゼロ。スマホもなく、国際電話もままならない。日本語を話す機会が完全に失われていた。

「自分ではストレスだと思っていなかったんです。でも脳が勝手にストレスを溜め込んでいて、それが爆発したんだと思います」

抗うつ剤を1年間飲み続け、学生時代に続けていたテニスを再開して日本人との交流が生まれたことで、ようやく回復したという。

自分の体ですら思い通りにならない日がある。ましてや他人を自分の型にはめようとすることに、どれほどの意味があるのか――。取材を進めるうちに、この経験が、小野田さんのマネジメントの根幹にあるように感じた。

調理場に立つ小野田さん
筆者撮影
商品開発室に立つ小野田さん。味の改善と新メニュー開発がここで日々続けられている