なぜ祖父、父は家で怒鳴り散らすのか
ここまで、国や文化レベルでの行動様式があると述べました。
ここからは、より私たちの身近にあり、逃げ場のない2つの密室、つまり「家庭」と「学校(部活)」に焦点を当てます。
私たちは皆、親や先生、先輩から「生きるためのルール(価値観)」を受け継いでいます。しかし、ここには残酷なパラドックスがあります。
それは、かつて過酷な時代を生き抜くために不可欠だった「強さ」や「麻痺」といった戦略が、平和な時代においては、次世代を深く傷つける「武器」へと変貌するということです。これを心理学では「多世代伝達プロセス」と呼びます。
具体的な事例を通じて、このメカニズムを見てみましょう。
事例1:家庭に潜む亡霊
日本の多くの家庭で、かつて(あるいは今も)見られる光景があります。
夕方からこたつに入り、テレビを見ながら焼酎や日本酒を飲み続ける祖父。酔いが回ると不機嫌になり、祖母が「体に悪いから」と諌めると、「うるさい!」と食卓を叩いて怒鳴り散らす。ときには孫であるあなたにも理不尽な説教が飛んできたかもしれません。
多くの人はこれを見て、高齢の男性は「意志が弱い」「酒癖が悪い性格」と片付けます。しかし、ACEs(Adverse Childhood Experiences:小児期の逆境体験)と精神医学など最新の知見を通して見ると、まったく別の真実が浮かび上がります。
突然の激昂は触れられたくない傷を守るため
80代以上の世代は、戦争、空襲、疎開、そして戦後の飢餓という、現代では想像を絶する「集団的トラウマ」を経験しています。
当時の日本にはPTSDという診断も、心のケアも存在しませんでした。
フラッシュバック(恐怖の再体験)や、生き残ったことへの罪悪感に苛まれる脳を鎮めるために、彼らに何ができたでしょうか?
唯一手に入る、安価で合法的な「薬」――すなわちアルコールで心を麻痺させるしかなかったのです。これを「自己投薬仮説」と呼びます。
彼らの飲酒は、快楽のためではなく、痛みから逃れるための必死の処置でした。
そしてまた、突然の激昂は性格の悪さではなく、触れられたくない傷(トラウマ)を守るための過剰な「闘争反応」であった可能性が高いのです。
しかし、その背景を知らない子どもは、「嫌なことがあったら酒に逃げればいい」「気に入らないことがあれば怒鳴って相手を支配すればいい」という誤った解決策(コーピング)を学習し、無意識に連鎖させてしまうのです。または、徹底的に男性全般を無視、卑下します。ある特定の学問では、父親(祖父)のこのような態度を経験した人の視点からの経験論的な学問さえ出てきています。

