20世紀以降、エネルギーは「支配の道具」へ

1.エネルギーが強力な「外交カード」ではなくなる

人類の歴史において、エネルギーは単なる資源ではありませんでした。

石炭、石油、天然ガス、そしてウランなどのエネルギーは、政治や経済、軍事と強く結びつき、国を動かす力そのものだったのです。

特に20世紀以降、エネルギーを多く産出できる国は、世界で大きな影響力を持つようになりました。石油や天然ガスを持つ国は強く、持たない国は依存せざるを得ない。エネルギーは「必要なもの」であると同時に、「支配の道具」でもありました。

たとえば、第一次世界大戦や第二次世界大戦では、石油の確保が戦争の行方を左右しました。日本が東南アジアへ進出した背景にも、石油を求める事情があり、アメリカによる対日石油禁輸は開戦の大きな引き金になりました。

冷戦時代には、ソ連が天然ガスの供給を通じて東欧諸国に影響力を持ち、21世紀に入ってからも、ロシアは天然ガスを交渉材料としてヨーロッパを牽制してきました。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際も、ガス供給の停止が現実の「圧力」として使われました。

このように、エネルギーは長い間、「外交カード」の一つとして使われ、国家同士の力関係を決めてきたのです。エネルギーを持つ国に依存せざるを得ない構造が、世界の不安定さを生み続けてきました。

エネルギーを奪い合わない世界へ

国が戦争を始めるとき、国民を納得させるための理由が必要になります。その中で最もわかりやすく、強力だったのが「資源の確保」でした。

「エネルギーが足りなければ国が立ちゆかなくなる」という理屈は、多くの人にとって説得力があったのです。

しかし、もし核融合が普及し、エネルギーが十分に行き渡るようになれば、この理由は成り立たなくなります。エネルギーが不足しない社会で、「資源のための戦争」を正当化することは難しくなります。戦争の大義そのものが弱まるのです。

さらに重要なのは、国家の自立性が高まることです。エネルギーは、食料や水、その他生活必需品、さらには通信など各種インフラと同様、国民や国家が存続するための基盤です。

それを他国に頼らずに確保できることは、国家が自分の判断で政策を決められる自由を持つということです。核融合は、各国に「エネルギーの主権」を取り戻させる技術だと言えます。

もちろん、核融合がすぐに世界中へ広がるわけではありません。技術的にも経済的にも課題は残っています。しかし、2030年代以降に小型の商用炉が普及し始めれば、世界のエネルギー地図は確実に変わっていきます。

将来、エネルギー格差は「資源」ではなく「科学技術」の差によって生まれるかもしれません。その点で、日本のように技術力を積み上げてきた国にとって、核融合は有利に働くと考えられます。

核融合は、エネルギーの歴史だけでなく、国際関係そのものを書き換える力を持った技術なのです。

【図表1】エネルギー問題がきっかけで起こった戦争の例
出典=『核融合発電で世界はこう変わる』