割増退職金の相場は500万~1000万円

とはいえ、世の中では黒字リストラ企業の退職金額の多さに目を引かれ、「会社が早期退職募集すれば自分も応募する」という中高年も珍しくない。しかし早期退職募集への応募は会社側にメリットはあっても社員にとっては微妙だ。

確かに大企業の中には割増退職金を24カ月分(2年分)ないし36カ月分(3年分)、多いところでは48カ月分(4年分)の大盤振る舞いをするところもある。

企業にとっては退職費用として特別損失を計上することになるが、年功序列で高止まりしている中高年の人件費を大幅に削減でき、次年度以降は会社に利益をもたらす。

しかも「人件費構造改革」のためのリストラと言えば、株主の理解も得られ、株価が下がることもないだろう。

一方、社員にとってはどうだろう。じつは上場企業の早期退職者募集の割増退職金は、前出の大手企業ほど高くはない。

東京商工リサーチ情報本部情報部の本間浩介氏は「加算される特別退職金の額は一概には言えないが、平均で1人500万~1000万円ぐらいではないか。東証プライム企業だと1000万円ぐらい、スタンダード、グロース市場になると、1人あたり500万~200万円ぐらいになる」と語る。意外と少ないのに驚く。本間氏は「月給の12カ月分であればけっこう手厚いし、高いほうではないか」と語る。

一万円札を両手で数えているシニアの手元
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実際に検証してみよう。東証プライムの新電元工業(本社:東京都千代田区、従業員数は単体で1000人超)は今年1月27日から2月26日の期間に、満50歳以上かつ勤続10年以上の正社員などを対象に50人程度の早期退職者募集を実施した。

3月9日に公表したリリースによると46人が応募したとある。支援内容は特別加算金に加え、希望する正社員を対象にした「再就職支援プログラム」を提供するとあるが、具体的な特別加算金の額は明示されていない。

一方、「特別退職金及び再就職支援に関わる費用約6億円を特別損失として2026年3月期決算に計上する予定です」(リリース)と書かれている。

6億円を応募者の46人で割ると約1300万円になる。再就職支援費用を除いても1000万円強であり、本間氏のいうプライム市場の平均的な割増金と同程度になる。

つまり、割増金の実態は高くても1000万円程度が現実である。仮に年収が1000万円であれば1年分を余計にもらえることになる。

転職が年収500万円で決まれば御の字

少なくない額ではある。しかしこれで本当に会社を辞めるメリットといえるのだろうか。

50歳であれば定年まで10年、その後、再雇用で65歳まで働くとすると、最低15年は働かなくてはいけない。仮に会社が3年分の割増退職金を支給したとしてもそれだけでは暮らせない。もちろん今の日本は人手不足であり、雇ってくれる会社はあるだろうし、再就職すれば何とかなると考えている人もいるかもしれない。

年齢による「転職限界説」も薄れつつあり、中高年の転職者も増加している。

マイナビの「転職動向調査2026年版(2025年実績)」によると、25年の正社員の転職率は7.6%であるが、40代は21年以降最高の6.8%、50代も最高の3.8%となっている。とはいっても転職後の年収がそんなに高いわけではない。50代の転職後の年収は572.8万円だ。また、転職サービス「doda」のエージェントサービス経由の転職者データのミドルシニア(45~60歳)の平均決定年収は566万円(2025年4~9月期)だ。

大企業の大学卒のモデル年間賃金は、50歳で約1096万円、55歳で約1106万円だ(中央労働委員会調査)。つまり運良く再就職先が決まったとても半額程度ということになる。ちなみに同調査では30歳のモデル年間賃金が592万円であり、それと同程度ということになる。