酪農の崩壊…1個4円でしか売れない卵
消費者にとって食品は高すぎる。だが皮肉なことに、生産者にとっては安すぎとなっており、養鶏農家は危機感を募らせる。
国際養鶏業界専門誌のポルトリー・ワールドによると、ロシア南部クラスノダール地方では、多額の債務が積み重なった養鶏場が操業不能に陥った。この養鶏場では15万羽以上の採卵鶏が置き去りにされた。
数日間餌を絶たれた鶏は、共食いを始めていたという。これとは別に、ロシア中部のウドムルト共和国でも約3000羽が野外に遺棄されている。
引き金は、卸売価格の暴落だ。ロシア農家協会「ピープルズ・ファーマー」副会長のクセニア・スムコワ氏によると、供給過剰を背景に、6月には卸売価格が1個2ルーブル(約4円)まで急落した。生産コストの半値にも届かない。大多数の農場が赤字経営に陥っている。
鶏卵だけの話ではない。ウクライナの英字ニュースサイトのニュー・ボイス・オブ・ウクライナは、ロシア連邦統計局ロスタットのデータをもとに、ロシアの食料生産は2025年、15年ぶりに前年を下回ったと報じる。3四半期累計で0.6%の減少だ。食品産業への投資額もほぼ半減している。
もはや問題は、物価が高いという次元ではない。食料を届ける仕組み全体が崩壊へと向かっている。
街角から「豊かな時代」の象徴が消えた
値段が上がるだけなら、中間所得層以上へのダメージは少ないかもしれない。だが、そもそもロシアでは買える商品が減っている。
メデューザが報じた調査会社ニールセンの調査によると、2025年7月、ロシアの食料品店の品揃えは前年同期比で2.3%減った。
街の景色も様変わりし、より質の低い商品を扱う店舗へと、店ごと入れ替わっている。かつて「豊かさ」の象徴だったスーパーマーケットが次々と閉じ、代わって広がるのが「貧者のための店」とも呼ばれるハードディスカウンター(格安店)だ。ニュー・ボイス・オブ・ウクライナによれば、その市場シェアはロシア全体で60%を超えた。
生活の余裕の象徴だった飲食店も消えている。モスクワ・タイムズが引用したロシアIT大手ヤンデックスの地図サービス、ヤンデックスマップのデータによると、2025年11月時点で、ロシア全土の飲食店は約11万5000店。前年から3.1%減っており、2022年以降では初の減少を記録した。1年間で約3700店が消えている。
国民が戦争より恐怖する物価高
ロシア政府は、事態は制御下にあると主張する。
モスクワ・タイムズによると、プーチン大統領は2月、年初のインフレ急騰を「想定内」と述べ、付加価値税の20%から22%への引き上げと季節要因が原因だと説明した。
だが中央銀行は、インフレ圧力を抑え込むため2023年末以降、政策金利を16%超に据え置いている。景気を冷え込ませかねない異例の高金利を2年以上維持し続けている事実から、物価上昇がプーチン氏の言う「想定内」にとどまっていないことが読み取れる。

