密輸したスターリンクで生き延びてきた

そもそもロシア軍はなぜ、西側の民間技術にこれほど依存するようになったのか。背景には、戦争初期の犯した戦略上の失敗がある。

ロシアの独立系ニュースサイト「メデューザ」によれば、2022年の全面侵攻開始時、ロシア軍はシリアでの成功体験から、制空権を確保できると高をくくっていた。

ところがウクライナの防空能力は想定を大きく上回り、侵攻初期に防空システムの半数近くを破壊しても制空権は握れなかった。以降、高価なミサイルを使うまでもない移動目標に対しては、有効な攻撃手段を欠いたまま、戦争は泥沼化していった。

手詰まりを打開したのが、2025年秋にロシア国防省のドローン戦部隊「ルビコン」が開発した低コスト固定翼ドローン「モルニヤ2」だった。スターリンクのアンテナを搭載したこのドローンは、前線を越えて20〜80キロ先まで飛び、奥地の目標を捕捉・攻撃できた。

ロシア軍のドローン「モルニヤ2」
ロシア軍のドローン「モルニヤ2」(写真=Mil.ru/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

しかしこの「切り札」は、致命的な弱点を抱えていた。イーロン・マスク氏のSpaceX社が運営するノートサイズのスターリンク端末は、アメリカの制裁でロシアへの正式な輸入が禁じられている。中東カタールの衛星テレビ局アルジャジーラによると、ロシアは旧ソ連諸国や中東(特にドバイ)経由で偽造書類を使い、数千台を密輸入してきた。制裁を迂回しながら西側の民間技術に軍事作戦の要を預ける、危うい綱渡りを続けてきた。

ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ側はロシアがドローンにスターリンクを搭載し始めたことを数カ月前から察知していたと指摘。攻撃の精度と妨害電波への耐性が向上したことで、大規模攻勢への懸念を強めたウクライナ政府が、SpaceXに対応を求めていたという。

ウクライナはSpaceXと迅速連携

ウクライナの新国防相ミハイロ・フェドロフ氏は今年1月の就任早々、SpaceXとの交渉に動いた。

ニューヨーク・タイムズによると同氏は1月、SpaceXに働きかけ、スターリンクへの接続をウクライナ政府公認の登録端末に限定させた。ウクライナ政府がホワイトリスト(許可する端末のリスト)を管理することで、ウクライナ領内での使用可否の決定権を掌握し、ロシア兵がウクライナ領内に密かに持ち込んだ端末を使い物にならなくする仕組みだ。

速度制限も設けられた。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、フェドロフ氏の顧問を務めるドローン専門家セルヒー・ステルネンコ氏は、端末が時速約90キロを超えると通信が自動的に遮断されると明かした。

ウクライナ国防省がSpaceXと協力して導入した暫定措置であり、ロシア側のオンラインチャンネルでは、早くも不満の声が上がっているという。

カーネギー国際平和財団のマイケル・コフマン氏は、端末登録の義務化は「ロシアの前線部隊に、通信システムの再編を強いる」と読み解く。スターリンクに依存する限り、速度制限によりロシアが長距離攻撃ドローンを使用することは難しくなる。高速飛行中の兵器は通信を失い、遠隔操作は不能となる。

ロシア側は作戦への影響を否定しているが、国外の報道を総合すると、まったく違う実態が見えてくる。西側の技術に依存していたロシア軍は、いまその代償を払わされている。