「#ママ戦争止めてくるわ」の“欠落”
【細谷】先に触れたように、プーチンにとってのゴルバチョフも裏切り者です。今の中国でも、例えば王毅外相は駐日大使を長く務め、知日派で知られていました。以前であれば、日中間に摩擦が生じれば、すぐに利害の調整の可能性を検討して、対処したかもしれません。
ところが現在は、共産党の序列も高い中国の指導者の一員となり、「日本寄り」と見られることを避けるべく、権力に同化していく。裏切り者だと思われないように、率先して日本を批判せねばならないのかもしれません。
日本も他人事ではありません。昨年9月にJICAが「アフリカからの移民を大量に受け入れようとしている」などという、偏った情報や偽情報によって、日本の開発援助それ自体の価値観も激しい批判にさらされました。こうした状況下では、ナショナリストたちによって自国にとって本来必要な外交が実行不可能になり、陰謀論や偽情報に基づく単純化された正義感がそのまま対外政策に転化されることになる。それによってさらに国家間の相互不信は強まり、最悪の場合、物理的な衝突に至ることになりかねません。
――世界観の違いは国内にもありますね。
【細谷】例えば先の衆院選ではXで「ママ戦争止めてくるわ」というハッシュタグが流行し、中道改革連合もこれに乗りました。このハッシュタグを使った人は「日本が将来起こしかねない戦争を止めるために投票に行く」という意思を表したかったようですが、「日本が起こす戦争」しか想定していないという点で、イマジネーションが欠落していると言わざるを得ません。
「平和主義でいるなら世界は平和」の間違い
【細谷】さらに、あのハッシュタグを海外の人が見たらどう思うか。すでに起きている現在進行形の戦争がウクライナで展開しているさなかです。「日本は幼子の母親までが、ロシアに抵抗するために、なんと義勇兵としてウクライナの戦場に行ってくれるのか」と思うのではないでしょうか。
中道改革連合の人たちは、戦前の反省からこのハッシュタグを利用したのでしょうが、実はこうした世界観こそが、戦前の日本の感覚に非常に似ています。アジアの植民地解放を訴えながら、韓国や台湾を植民地にしてその矛盾に気づかない、その姿勢です。非常に独りよがりで、閉ざされた狭い世界観で国際社会を見てしまう。
これは敗戦国の呪縛です。日本とドイツは戦後、平和主義というものを唯一最善の政治の目的として掲げていて、「我々が主体的に戦争を起こさなければ、世界は平和である。だから武力を最小限にして、大人しくしていればいい。平和を破壊するような国は他にはないのだから」という“天動説”を信じてきたのです。
しかしこれは幻想で、ユートピア主義であり、現にロシアは戦争を継続中です。平和主義のみでは、「自分たちが大人しくしていても戦争が起きてしまった時、どうすればいいのか」に対する答えが出せないのです。
2015年の安保法制をめぐる論争の中でも、私はしばしば「ほんとうに平和を求めていて、戦争を止めたいのであれば、なぜロシアによるウクライナ東部での軍事力行使を止めさせないのか」と問題提起したのですが、黙殺されました。


