日本がこれから取るべき外交とは

――国内の世界観も分裂し、大国が国際秩序に背を向け、中東や欧州で衝突が起きている状況で、日本はどうすればいいのでしょうか。

【細谷】岸田文雄首相がかつて国内外の演説で何度も述べていたように、今は、「世界史の転換点」にあります。非常にかじ取りが難しい状況で、これまでのように「アメリカについて行けば大丈夫だ」という単純な分かりやすい時代ではなくなりました。

すでに2010年代から世界はパワーポリティクスの時代に突入し、各国のエゴイズムも肥大しています。国際社会全体の平和や安全ではなく、自国の安全や利益を最優先することが当然視される時代です。

となれば、日本は自助努力が必要になります。安倍政権が猛批判を受けた2015年の平和安全法制もその一環でしたし、アメリカ頼みから自助努力に移る過程で、CPTPPを発足させ、QUAD(日米豪印戦略対話)やFOIP(自由で開かれたインド太平洋構想)を提唱してきたのはそのためです。

2026年1月のダボス会議でカナダのカーニー首相が行った演説は、ミドルパワーの結集を訴えるものでした。これは評価されすぎている面もありますが、価値を共有するミドルパワー諸国と連携することは重要です。その際には、日本がグローバルサウス諸国への呼びかけ役を担うことも必要になるでしょう。

日米同盟には頼りながら、しかしアメリカが国際法や国際秩序を乱すことについては同調することはしない。一方で、国際社会における法や規範を維持しミドルパワー諸国の連携を進めていく。日本はこの一部矛盾する二正面作戦、「二重戦略」を可能な限り整合させていかなければなりません。

その点、高市政権は、アメリカによるベネズエラのマドゥロ拘束時には、この二つをうまく合わせた声明を出していました。今後もこうした方向性で進んでいけるかが問われています。

取材は細谷先生の部屋で行われた。
撮影=プレジデントオンライン編集部
著書『危機の三十年』(新潮選書)はタイトル通り、国際政治学の古典『危機の二十年』を下敷きにしている。

今、国際政治史を学ぶ意味

――針の穴を通すような難しさですが、そうした時代だからこそ、国際政治学者をはじめとする専門家の知見が必要ですね。

【細谷】大学の授業でも心掛けていることですが、国際政治史という私の専門から果たせる役割は、目の前にある問題を時間的、空間的に相対化してとらえ直す目を持つこと、そうした観点を提供することだと思っています。

例えば2015年の安保法制議論の際には、反対派から「日本が戦争法を導入しようとしている」との声が上がりました。しかし集団的自衛権が行使できることが悪だというならば、集団的自衛権を行使可能なスイスやスウェーデン、フィンランドなどの北欧諸国もすべて、「戦争ができる国になろうとしている軍国主義国家」になってしまいます。

平和国家として知られる国々が、国連加盟国として当然に持っている権利を、なぜ日本が行使可能にするだけで軍国主義化と言われなければならないのか。こうしたことを考える際に、目の前の言葉に踊らされるのではなく、相対化が必要です。