iPS細胞治療の承認はゴールではない
薬の承認はよく「完成」と受け取られますが、本来はその逆です。承認されて初めて、実際の患者に使われ、現実の評価が始まります。机上のデータではなく、年齢も体質も病歴も違う多くの患者に使われてみて初めて、本当の効果とリスクが見えてくるのです。
今回のiPS細胞由来製品に用いられた「条件及び期限付承認」は、その評価プロセスを前倒しにした特殊な仕組みです。
有望そうな技術を、通常より早く患者に届けることができる一方、そのぶん未確認のリスクを社会が背負うことになります。また、おそらく高額になるであろう薬価が本当に妥当なのかも検証が必要です。だからこそ、先払いで資格を与えた以上、その評価も世界標準でなければなりません。何人に使われ、どれだけ効果があり、どんな副作用が出て、社会はいくら負担したのか。
これまで日本の再生医療製品の早期承認制度は、国際科学誌ネイチャーやサイエンスでたびたび批判されてきました。しかし、有効性と安全性のデータを世界に公開し、日本だけでなく海外でも医薬品として認められてこそ、iPS細胞治療の「早期承認」は単なる国内制度上の先行例ではなく、国際社会に通用する成果となります。そうして初めて、日本の技術力に対する真の信頼も生まれるのです。。
先行したハートシートの事例では、条件及び期限付承認から正式承認に至ることなく、有効性未確認のまま撤退という結果になりました。今回のiPS細胞治療も同様に、「7年後に正式承認か撤退か」という結末が、今から想定されているということも、社会全体で共有すべき事実です。
「日本発のiPS技術がすごい」という誇りは大切です。その一方で、希望を語るなら客観的な数字の上に立ち、制度を語るなら国際的に通用する透明性の上に立つ必要があります。世界初の日本の科学技術の承認を喜ぶ前に、私たちが考えるべきことは、まだたくさんあるのです。

