「空気」による体調不良で悩む人は少なくない。花粉症はその筆頭だが、他にも原因がある。医師の谷本哲也さんは「都市部では注意報が出ていなくても心肺機能だけでなく、心疾患や脳卒中、判断力低下、うつ病リスクを上げる原因物質が多く含まれる日がある」という――。

屋外の運動には大気汚染に要注意

空がかすんでいるわけでもない。注意報も出ていない。だから今日の空気は大丈夫。多くの人はそう考えます。しかし、大都市の空気問題の本当の怖さは、むしろ当たり前な現代の日常生活に潜んでいるのかもしれません。

東京、大阪、名古屋、福岡のような大都市では、PM2.5(微小粒子状物質)、二酸化窒素(NO2)、光化学オキシダントへの曝露が、特別な日だけでなく、日常生活の中に静かに入り込んでいます。

近年のそれら大都市の空気は、PM2.5は年平均で一桁後半〜10µg/m3台前半、NO2は一般環境で0.01ppm台まで下がってきています。一方、光化学オキシダントは東京・大阪・名古屋・福岡でもなお基準未達成が珍しくなく、見えにくいが残り続ける都市リスクとなっています。

【図表1】PM2.5濃度の年平均値の年度推移(一般局)
平成28年度の年平均値が全国平均値を上回り、かつ濃度の推移が全国平均値の推移と異なる傾向がみられる一般環境測定局(環境省資料より)

通勤で歩く、駅まで急ぐ、昼休みに散歩する、夕方に軽く走るといった、ごく普通の行動のたびに、私たちは都市の空気を肺の奥まで取り込んでいます。マスクをしていない、あるいはしていても不織布一枚では、PM2.5の微細な粒子を完全には防ぎきれません。

運動自体は健康によいのはご存知の通りです。しかし注意が必要なのが、大都市の屋外で体を動かせば動かすほど、深く速く呼吸するぶん、PM2.5などを体の中に取り込む量が増えてしまう点です。

大気汚染の健康基準がより厳しく

世界保健機関(WHO)は2021年、PM2.5の指針値を以前の基準(年平均10µg/m3)と比べると、実に半分の年平均5µg/m3、24時間平均15µg/m3へ大幅に引き下げました。

「1年を通して平均するとPM2.5は5µg/m3以下が望ましい」「1日単位で見ても平均15µg/m3以下が望ましい」ということです。年平均5µg/m3以下は、慢性的に吸い続ける曝露をできるだけ低く抑える目標です。24時間平均15µg/m3以下は、一時的に濃度が上がる日もできるだけ少なくし、その日の健康影響も抑えようという目安です。WHOはこれらを、各国が法的基準を考える際の健康ベースの参照値として示しています。

大事なのは、これは「15µg/m3を1日でも超えたら直ちに危険」「5µg/m3未満なら完全に安全」という意味ではないことです。WHOの考え方は、空気汚染に明確な安全圏があるというより、低ければ低いほど健康被害は減る、というものです。そのため、5や15は「ここまで下げたい」という健康保護の目標であって、白黒を分ける絶対の数値ではありません。

出典=WHOのグローバル大気質ガイドライン