日本の大都市の大気汚染レベル
日本の空気は昔よりずっと改善はしました。東京都環境科学研究所の資料では、2021〜2023年度の都内PM2.5年平均値はおおむね9µg/m3前後でした。1990年代と比べれば、明らかに改善しています。しかし、ここで安心すると見誤ります。
年平均はあくまで一般的な目安であり、今日のこの時間に自分が吸う空気をそのまま示しているわけではありません。
東京都の大気汚染常時監視データを見ると、地点や時間帯によっては20µg/m3台に達することもあります。雨上がりの翌日は粒子が洗われて下がりやすい一方、無風の晴天が続くと汚染物質が滞留して上がりやすくなります。天気予報と同じように、大気の状態は毎日、毎時間、変化しています。また、同じ東京でも、新宿の幹線道路脇と代々木公園の木立の中といった周辺環境の違いで、PM2.5の実測値が異なることも珍しくありません。
この問題は東京に限りません。交通量が多く夏場の光化学オキシダントが問題になりやすい大阪、春先の黄砂や中国大陸からの越境汚染の影響を受けやすい福岡でも、事情は同じです。大都市の空気問題は、もはや特定地域の話ではなく、都市生活者全体が日々向き合う共通課題となっています。
出典
「東京都における微小粒子状物質(PM2.5)の経年変化」
東京都大気情報「大気環境測定結果について」
Environ Health Prev Med. Epidemiological studies on the health impact of air pollution in Japan: their contribution to the improvement of ambient air quality.
大気汚染がさまざまな病気リスクを上昇させる
WHOの改訂は、低濃度曝露でも心疾患・脳卒中・肺がんのリスクが上昇するという膨大な疫学的エビデンスを踏まえたものです。健康を守るための理想水準は、多くの人が思っているよりずっと厳しいのです。「注意報が出たら気をつける」という発想だけでは、もはや不十分であることが、科学的にはっきりしてきています。
PM2.5は肺の奥深くまで入り、咳や息切れだけでなく、気道炎症、肺機能低下、喘息やCOPDの悪化に関わります。2024年の小児5279人の追跡調査では、幼少期PM2.5曝露が3.4µg/m3高いごとに、5歳までの喘息発症が31%、11歳まででも23%増加しました。2025年の研究では、長期曝露でCOPD発症リスクが12%増、別解析ではPM2.5成分の混合曝露でCOPDリスクが50%増と報告されています。
しかも害は肺だけでなく心臓にも影響します。2025年の日本の7地域・4万4232例の解析では、短期のPM2.5上昇で急性心筋梗塞入院が2.4%増加しました。
出典
JAMA Netw Open. Early-Life Exposure to Air Pollution and Childhood Asthma Cumulative Incidence in the ECHO CREW Consortium.
Npj Climate and Atmospheric Science. Association of fine particulate matter constituents with chronic obstructive pulmonary disease and the effect modification of genetic susceptibility.
Communications medicine. Components of particulate matter as potential risk factors for acute myocardial infarction.

