1日350グラムという野菜摂取目標量をクリアしている日本人は少ない。医師の谷本哲也さんは「果物を含む副菜を積極的に摂る人のほうが、あらゆる健康リスクが低くなるだけでなく、“いい脳”になるという結果が世界の複数の大規模追跡調査がわかった」という――。
ハワイ料理ポキ
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野菜が絶対的に不足する現代の日本人

毎日の食生活を語る上で、野菜や果物が大事だということは、誰でも知っているでしょう。でも、実際は十分に食べていません。なぜでしょうか。

興味深いことに、2023(令和5)年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45540.html)には、「野菜を十分に食べられない事情があるのか」という趣旨の設問があります。その結果、男女ともに「特にない(食習慣に問題はないため改善する必要はない)」と答えた人の割合は、約6割と最も高い結果でした(農林水産省「野菜の日WEBシンポジウム資料」https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/2ibent-111.pdf)。すなわち、自分は足りていると思っている人がいちばん多いのです。

ところが実際の1日の野菜摂取量は、目標の350グラムには平均で94グラム(コンビニのミニサラダ程度の手のひら一杯分相当)届いていません。特に20歳以上では男性262グラム、女性251グラムで、この10年間で男性も女性も有意に減少しているのです。

年代別に見るとさらに深刻で、20代では男性231グラム、女性212グラムと全年代の中で最低水準。国が1日の目標として別に掲げる果物200グラムに対しても、20代の摂取量は44グラムにとどまります。

食事の中でいちばん「組み合わせて食べられていない」品目は副菜、つまり野菜料理です。男性も女性も8割近くが「副菜を省いている」とアンケートに回答しています。「一部の不摂生な人が野菜や果物を食べていない」のではなく、最近の日本人全体の食卓の構造的な変化が野菜や果物不足の背景に潜んでいるようです。

野菜・果物と脳は無関係ではない

「野菜不足は体の話でしょ」と思っている人に、近年の研究は強い一石を投じています。

たとえば、イギリスの大規模医療データベースを使った研究では、平均年齢62.4歳の9925人の脳のMRI画像データと食生活の関連性の分析が行われました。その結果、生野菜サラダの摂取量が多いほど、脳の神経の情報伝達を担う灰白質の容積が大きかったのです。また、新鮮な果物の摂取量は、記憶・感情に深く関わる海馬を含む特定の灰白質領域の大きさと関連していました(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S105381192300589X)

日本でも似た方向の知見があります。国立長寿医療研究センターなどが40〜89歳の日本人1636人を対象に脳MRI画像で2年間追跡した研究では、野菜・魚・大豆製品が多い「日本食型」の食事を続けていた女性は、西洋食中心の女性に比べて脳全体の灰白質の萎縮が少なかったことが示されましたhttps://link.springer.com/article/10.1186/s12937-024-00935-3

念のため補足しておくと、これらは観察研究で「野菜を食べれば脳が大きくなる」という因果関係が確定したわけではありません。それでも、「食べ物が脳を作る」という可能性が画像検査という具体的な形で見えてきたことには、それだけの重みがあります。