「健康のプロ」が自分を守れない?
「医者の不養生」という言葉があります。実際、内科医である私の周囲でも、喫煙がやめられない、飲酒量が気になる、多忙で食生活が乱れる、運動不足で体重が増えメタボ傾向など、決して理想的とはいえない健康習慣を持つ医師は珍しくありません。
さらに不養生につながりやすいのは、長時間労働や当直などの夜勤、重い責任とストレスといった、心身を壊しやすい職場環境も同時に抱えていることです。
その一方で、医師という職業には、専門的な医学知識、医療へのアクセスのしやすさ、比較的高い所得といった、健康を守りやすい条件も揃っています。そんな医師の寿命についての日本での研究は限られますが、欧米からの発表が近年相次いでおり注目を集めています。
医師が不養生に見える理由
医師の喫煙率は、統計的には一般人と比べて決して高くありません。それでも医師がタバコを吸っている姿を見かけると、強烈な印象が残ります。白衣を着た「健康のプロ」が喫煙している光景は象徴的で、「なぜ医師なのに」という違和感が記憶に刻まれやすいからです。
飲酒についても似た構造があります。医療の世界は学会、研究会、送別会、歓迎会など、形式的に飲酒につながりやすい職場文化を持っています。ワインが趣味という医師も多いです。ストレスを短時間で切り替える手段として、飲酒が習慣化すると量が増えやすくなります。加えて、医師という職業は自分の健康管理くらいできて当然という無言のプレッシャーがあり、弱音を吐きにくい雰囲気も根強く残っています。
肥満に関しては、勤務様式が直接的に影響します。当直、夜勤、オンコール待機があると、食事のタイミングは不規則になります。空腹の反動で高カロリーの食事に偏りやすく、食事の時間も長くは取りにくいので、ちゃんとした食事よりインスタントラーメンやファストフードなど超加工食品に手を伸ばしがちです。疲労と睡眠不足は食欲調節ホルモンにも影響を与えます。こうして体重が増えやすい環境が、構造的に整ってしまうのです。
さらに医師特有の意外な落とし穴が受診の先送りです。医師は自分の心身に不調があったとしてもその原因を理屈で説明できてしまうため、「忙しいから後で」「たぶん大丈夫」と自己判断で先延ばしにしやすい傾向があります。これは知識があるがゆえの罠で、健康のプロであることが逆に自分は例外という錯覚を生むこともあるのです。

