2026年がデッドライン
新税率の適用開始が2027年1月からということは、逆に言えば、今年2026年12月末までに株式を売却すれば、現行の税率で済みます。
この猶予期間に、いま富裕層の間で起きているのが、「保有株式の駆け込み売却」です。含み益を多く抱えるオーナー経営者や投資家は、新税率が適用される前に利益を確定させようと動いています。
また、事業承継やM&A(企業の合併・買収)の前倒しも行われています。中小企業のオーナー経営者が自社株を後継者に譲渡したり、第三者に売却したりする場合、株式譲渡益が発生します。
新税率の適用前に事業承継を完了させれば、税負担を大幅に抑えられるため、M&A仲介会社や税理士事務所には「2026年中に話をまとめたい」という相談が急増しているといいます。
特に中小企業のオーナー経営者にとって、自社株の評価額が数億円から数十億円に達するケースは珍しくありません。事業承継税制の特例措置(贈与税・相続税の納税猶予制度)を活用する方法もありますが、後継者がいない場合は第三者へのM&Aが現実的な選択肢となります。
2027年以降に30%のミニマム税が適用されるか、現行の22.5%で済むかによって、手取り額に数千万円から億単位の差を生みますから、今まさに富裕層は尻を叩かれているわけです。
「日本脱出」は本当に得なのか
ミニマム税の引き上げを前にして、一部の富裕層が検討するのが「日本脱出」。つまり、海外に移住して日本の課税を逃れるという作戦です。
確かに、世界にはキャピタルゲイン(株式売却益)に課税しない国や地域があります。シンガポール、UAE(ドバイ)、マレーシア、香港などがその代表です。日本で高い税金を取られるなら、いっそ税率ゼロの国に移住してから株を売ればいいという考えもあるでしょう。
ところが、日本の国税当局は、「そうはさせない」とばかりに、さまざまな制度をすでに整備済みです。その中でも切り札と言えるのが、「国外転出時課税」、いわゆる出国税です。
2015年7月に導入されたこの制度は、1億円以上の有価証券等を保有する個人が日本を出国する際、「まだ売却していない含み益」に対して課税するという強烈な仕組みです。
具体的には、出国時点の時価から取得価額を差し引いた「未実現利益」に対して、所得税15.315%(復興特別所得税を含む)が課されます。
たとえば、取得価額1億円の株式が出国時に5億円に値上がりしていた場合、含み益4億円に対して約6100万円の所得税が課されます。まだ1円も利益を確定していないのに、です。
「出国税を払ってでも、税金がかからない海外へ出た方が得では?」と考える人もいるでしょう。しかし、ことはそう単純ではありません。
出国税を払って海外に移住し、その後株式を売却して無税で利益を得たとしても、出国税として支払った分は戻ってきません。
しかも、出国後に株価が下がった場合、実際には利益が出ていないのに税金だけ払った、という事態にもなりかねないのです(一定の要件を満たせば更正の請求は可能ですが、手続きは煩雑です)。
出国税の適用対象となるのは、「出国時までの10年間のうち5年以上、日本に住所または居所を有していた個人」です。逆に言えば、「5年未満しか日本にいなかった外国人が帰国する」ケースなどには適用されません。しかし、日本で生まれ育った日本人の大半は、当然この要件に該当するでしょう。
出国税・移住コスト・居住国の税制を総合すると、割に合わないケースが少なくありません。「日本脱出」は、これらのハードルを考慮し、なおメリットがあまりある場合にのみ経済合理性があります。

