「リリースの名義」で本気度が伝わってくる
企業不祥事などの危機管理において、「誰の名前でメッセージを発信するか」は企業の姿勢そのものを表します。今回の騒動では、リリースの名義が迷走した点にも小学館の考えの甘さが露呈しています。
さきほども触れたように、最初は「マンガワン編集部」という一事業部の名義でリリースが出され、その後「社長室」に変わり、最終的に「小学館」という会社名義で出されることになりました。
事態を本当に重く受け止めていたのであれば、一番初めの段階で迷わず「小学館」という全社的な名義で正式な謝罪リリースを出すべきでした。最初は編集部内の局地的なトラブルとして小さく済ませようとし、ネット上で批判が大きくなってから慌てて会社名義に引き上げたような印象を強く与えてしまいます。
このような対応は、事態の重大性を全く理解しておらず、なんとか責任から逃れようとしていると受け取られても仕方がありません。SNSからあっという間に火がつき、対応が後手後手に回ってしまった結果、読者だけでなく自社で連載を持つ大切な漫画家たちからの信用まで失うことになってしまったのです。
「ご説明」にあった完全にNGな一文
さらに専門家として目を疑ったのは、「マンガワンにおける新たな原作者起用問題と第三者委員会設置について」というリリース(3月2日付)の中にあった一文です。
このリリースでは、問題点の検証や原因の究明をするための第三者委員会の立ち上げと併せて、山本氏とは別に、過去に強制わいせつで逮捕され有罪になったマツキタツヤ氏が八ツ波樹という名義で『星霜の心理士』という漫画作品の原作者として活動していたことが明かされています。
このマツキ氏を起用した経緯を説明する文章のなかにあった「これをもって社会復帰を目指すことは否定すべきではないと編集部は判断しています」という一文に非常に驚きました。これは危機管理の専門家からすれば、完全に余計な一言です。
というのも不祥事に関するリリースは、お詫びと客観的な事実や経緯を、誠意をもって説明する場であり、会社の独りよがりな判断や価値観を世間にアピールするための場所ではないからです。
企業側がいくら「私たちはこう判断した」と力説したところで、世間から「いや、あなたのその判断自体が間違っているのです」と指摘されてしまえば、それまでです。この文章は事実上、「小学館は、名義を変えさえすればどのような経歴を持つ人物でも仕事ができると考える出版社です」と自ら宣言しているようなものです。
自分たちの判断の正当性を懸命に自己弁護するのではなく、まずは客観的な事実のみを淡々と述べることに徹するべきでした。その事実に対する評価は、自らが下すのではなく、あくまで第三者や社会の判断に委ねるのが正しい危機管理のあり方なのです。

