知らない土地や人との出会いの妙味

現役時代のTさんはガラス製品のメーカーに勤務する技術者だった。定年を迎えた62歳以降は、年金を受給しながら他の会社に「技術顧問」として再就職。ジモティーを始めたのはこの頃だ。

72歳で完全リタイアしてからは、週に2〜3回はジモティーで不要品を、もらったり売ったりする日々。パソコンでジモティー内をパトロールすることが日課になっている。

ダイニングテーブルでノートパソコンを使用しているシニア男性
写真=iStock.com/recep-bg
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「時間はたっぷりあるから、誰がどんな品を出しているのか、毎日眺めている。自分が売るときには、どんな人が手を挙げてくるかが楽しみ」

Tさんは住まいのある埼玉県内のみならず、「仕入れ」「販売」「譲渡」のために東京、千葉、神奈川まで車を走らせることもある。

「ジモティーを始めてから、ずいぶん道を覚えたよ。知らない土地、知らない人との出会いがある。一番遠くは、カラオケのレーザーディスクを取りに八王子まで行ったっけ。高速料金を節約したいから下道を使って、1時間半くらいかかったけど」

冒険か、暇つぶしか

Tさんは現役時代、月に数回は地方の工場に出張し、多忙な日々だったという。しかしリタイア後は生活が一変した。

「通勤や出張がないと、出歩くことがないから人に会う機会もなくなる」

介護系業界誌の記者に聞いた話だが、「家にこもりがちな高齢者の社会参加を促そうと、地域で介護予防体操などの教室を開いても、男性はほとんど集まらない」という。男性は公的サービスより「経済活動」のほうが、おのずと動けるのだろう。

「ジモティーはひまつぶし。でも知らない場所に出かけるから冒険みたいで、そこがいいよね……」

不用品を譲れば「ありがとう」と言われる。引退した自分が社会に必要とされていることを実感できる瞬間だ。フリマアプリがもたらす疑似的な「ビジネス空間」が、シニア男性の居場所を作っている。