経営上の判断には決まった正解がない

まず、組織の経営者は、「A案かB案か」という考え方をしていません。あくまでも目を向けているのは、最終的に会社がどうなればいいのか、そのためにはどんな状態を達成できればいいのか(ゴール)、そのとき何を基準にしながら施策を絞り込めばいいか(論点)といったことです。

ですから、さきほどの会話での経営陣は、そもそも「A案かB案のどちらかを選ばねばならない」とは思っていません。しかるべき条件を満たしながら、目指すゴールにたどり着けるのであれば、ほかの施策(たとえばC案やD案)でもまったく問題ないとわかっているのです。

経営上の判断には、決まった正解がありません。参考になるような過去事例がいつもあるわけではないですし、その場その場で一回きりの決断をどんどん下していかねばなりません。

そういうときには、「目の前に提示されたアイデアからどれかを選ぶ」だけでは不十分なケースも多々あり得ます。むしろ、限られた判断材料の中で、まず「何を重視して意思決定するのか」を決める(=「決め方」を決める)ことをしなければならないのです。

経営における意思決定というのは、本来このようなものです。その事実を知っているかどうかで、起案者側のコミュニケーション戦略はかなり変わってきます。

ビジネス上の意思決定の概念
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「決め方から決める」という姿勢

より高いレイヤーでの意思決定を日常的に行っている人ほど、「決め方から決める」姿勢が自然と身についています。彼らは、目の前の選択肢に飛びつくのではなく、前提となるゴールや論点につねに立ち返って考えるクセがついています。

そういう人に対して、「A案とB案のどちらがいいか?」と聞いても、期待したような答えが返ってこないのは当然です。「そもそもその2択である理由」が腑に落ちない限り、判断のしようがないからです。

だからこそ彼らは、まったく別のアイデアを当然のようにぶつけてきます。起案者サイドからすれば、いきなり関係のない話が飛び出したように思えるかもしれませんが、意思決定者のロジックからすれば、これはごくごく当たり前の思考プロセスなのです。

それを踏まえると、さきほどの役員もC案を本気で推しているわけではないでしょう。彼は次のようなことを知りたいだけなのです。

・いま会社として何を目指しているのか?(経営的に実現したいこと)
・この施策によって、どんな状態を実現しようとしているのか?(ゴール)
・選択肢を絞り込むとき、どんな条件を踏まえるべきなのか?(論点)
・なぜ、数ある手段の中からA案とB案が候補になっているのか?
・それ以外の選択肢は、本当に存在しないのか?