目的は「経営陣の説得」ではない
この恥ずかしいエピソードをお伝えしたのは、みなさんには「いかに企画を通すか?」だけを目的にしないでいただきたいからです。
たしかに経営陣とのコミュニケーションは、大変かもしれません。しかし、実現したい人事施策があるとき、われわれがやるべきことは「経営陣の説得」ではありません。
むしろ、彼らが存分に議論をして、ベストな意思決定ができるよう、しっかりと材料を準備して提示すること、すなわち「論点の洗い出し」こそが求められているのです。
そして、必要な論点をしっかり揃えるには、当然ながら施策の「ゴール」もはっきりさせないといけません。
したがって、ここまでの章で見てきた「ゴール」と「論点」は、経営陣とのコミュニケーションにおいても、きわめて重要なカギになり得ます。経営陣に対してこれらを提示し、ふさわしい施策だと判断されれば、その企画はおのずと通るはずなのです。
逆に言えば、経営陣とのすれ違いが生じるのは、それらをしっかりと示せていない証拠なのです。論点やゴールがあいまいである(もしくは伝わっていない)せいで、会議での議論が迷走し、話がとっ散らかり、「声の大きな人」の意見に流されてしまうのです。
経営者が「全然関係ないアイデア」を平気で口にする理由
人事の仕事をしていると、経営陣との議論のすれ違いは日常茶飯事です。
人事「今回は、A案とB案を提案します。それぞれの施策のメリット・デメリットは次のとおりです。どちらがよさそうでしょうか?」
役員「C案もいいんじゃないかな。どう思う?」
人事「えっと、そうですね……おいおい……AかBのどちらかを聞いたのに、関係ない話をしないでほしいなあ」
こんなミスコミュニケーションが起きたとき、つい「この役員、人の話をちゃんと聞いていないな……」などと思ってしまっていないでしょうか?
あるいは「どちらの提案もイマイチってことなのかな……」とガッカリする人もいるかもしれません。
上記の会話文に登場した人事担当者は、いろいろと考えたり調べたりした末に2案にまで絞り込み、「ここまでお膳立てしたのだから、あとは経営陣が2択で選んでくれればいい」と思っているのでしょう。
だからこそ、その場にいた役員が「C案もいいんじゃないか」と話しだすと、面食らうことになります。「A案かB案か」という二者択一を期待していたので、いきなり話が飛んだと感じているのです。
もちろん、単純に話がちゃんと伝わっていないのかもしれません。しかし、このチグハグは「人事と経営」という役割の違いから生まれている可能性を疑ったほうがいいでしょう。端的に言えば、両者では「決めようとしている対象」が違うのです。

