恐怖の「ロンドン地下鉄火災」
地下火災がどれほど恐ろしいものか。過去に駅で発生した火災で、特に重大な教訓を残した事例が2つある。ひとつは1987年11月18日にロンドン地下鉄キングス・クロス・セント・パンクラス駅(以下、キングス・クロス駅)から発火し、31人が死亡した事故である。
同駅は1863年に開業したロンドン地下鉄最古の駅のひとつで、メトロポリタン線、ピカデリー線、ビクトリア線、ノーザン線、ハマースミス&シティ線、サークル線の6路線が地下3層にわたり複雑に交差している。1日あたりの乗降客数は約30万人(事故当時)、ラッシュ時は1時間あたり4万人が利用する大ターミナルだ。
火災は地下1階の改札ホールとピカデリー線ホームをつなぐ、1939年に設置された高低差約17mの木製エスカレーターで発生した。東京消防庁がまとめた報告書によれば19時30分頃、エスカレーターが燃えているのを乗客が発見した。
通報を受けた駅員が初期消火を行ったが効果はなかった。係員はエスカレーターを閉鎖し、乗客をホーム停車中の電車内に誘導したが、連絡階段からビクトリア線ホーム経由で改札ホールに向かった乗客が火災に巻き込まれた。
木製のエスカレーターにマッチを投げ捨て
原因は乗客が火のついたマッチをエスカレーターに投げ捨て、この火が内部のグリスに着火。周辺の木材に燃え移ったものと推定される。改札ホールは工事で一部出入口が閉鎖され、駅事務室の放送機器も使用できない状況だったことが被害を広げたとみられている。
ロンドン地下鉄はそれまでホーム上の喫煙の禁止を徹底していなかったが、事故を受けて全面禁煙化を決定。営団地下鉄(現・東京メトロ)、都営地下鉄も1988年1月1日から全面禁煙化を決定した。この頃には既に受動喫煙が問題化しつつあったが、直接的な要因はロンドンの火災にあった。

