戦慄の「韓国・大邱地下鉄火災」
もうひとつの歴史に残る火災は2003年2月18日、韓国の大邱地下鉄で発生した。この火災は中央路駅に停車した列車の車内で56歳の男性がガソリン数リットルをまき、ライターに火をつけた放火事件だった。
火は座席や内装に燃え移り、一気に車内に広がった。乗客は車内から脱出したが、火災の影響で駅構内が停電したためパニックが増大した。それ以上に問題だったのは、指令所が現状把握に手間取り、反対側の線路に進入する対向列車を抑止できなかったことだ。
駅に進入した対向列車の運転士は炎と煙でパニックになった。すぐにドアを閉め、次の駅まで走行しよう考えたが、停電で走行不能だったため、あろうことかドアを閉めたまま運転席から逃げてしまった。
乗客の一部は非常用ドアコックを操作して脱出したが、多数は炎と煙から逃げられなかった。事件の被害者は死者192人、負傷者151人にのぼった。
厳しい安全基準の日本でもさらなる整備義務
被害を広げた要因のひとつが車両の火災対策だった。
前述のように日本の地下鉄は不燃、難燃素材を広く使用しているが、韓国で同様の基準が制定されたのは1998年で、それ以前に製造された当該車両には燃えやすく、有毒ガスが発生する素材が使われていた。
事件は日本の安全対策にも影響を与えた。
厳しい安全基準のあった日本でも、大量の可燃物を用いた放火まで想定していなかったため、大火源火災の発生を前提とした火災対策基準が制定され、排煙設備や避難経路の整備が義務付けられた。
モバイルバッテリーで飛行機が半焼
2つの火災は鉄道史に残る大事件となってしまったが、被害が拡大するか、抑え込めるかは紙一重である。「ボヤ騒ぎ」で済んだ発煙・発火トラブルも、条件が異なれば大きな被害を出したかもしれない。
冒頭に記したモバイルバッテリーの発煙・発火も、鉄道では重大事故につながっていないが、韓国では2025年1月、釜山の金海国際空港で格安航空会社エアプサンの航空機が半焼する事故が発生した。
航空業界はモバイルバッテリーの機内持ち込みルールを制定し、搭乗時に厳格な保安検査を実施しているが、手荷物棚から発火して周辺に燃え移った。離陸前に火災が確認されたため死者は出なかったが、飛行中なら墜落したかもしれない。

