値上げしたくてもできない“特殊事情”
利幅が小さいことに苦しんでいるのであれば、小売店が取るべき対策は2つです。たくさん売るか、1点あたりの値段を上げるか。パン屋であれば、商品を値上げしてコストの上昇分を回収する選択も可能です(うまくいくかどうかはわかりませんが)。
ところが、出版業界では「商品の値上げ」という手段が封じられています。日本では、書店が勝手に売価を上げたり下げたりできないんです。書店と販売会社(取次。本書の第三章で詳述)は、メーカーである出版社が決めた販売価格=定価で販売しなければならない。
これが「再販売価格維持制度」、いわゆる「再販制度」で、出版物は独占禁止法の適用除外となっているのです(これも第三章であらためてご説明します)。商品の売値を自己裁量で決められないわけです。この業界ならではの“特殊事情”ですね。
それでも、本がたくさん売れていれば問題ありませんが、業界全体として年々、売上が減少していることは各種メディアが報じている通りです。特に、雑誌の凋落が著しい。
「頼みの綱」コミックも紙から電子へ
ここでは、アマゾンなどネット書店ではなく、商店街に店舗を構える個人経営の「町の書店」をはじめとするリアル書店に関する話なので、紙の雑誌に限定しますが、最盛期(1997年)の売上1兆5644億円から、2024年には4119億円まで減っています(全国出版協会出版科学研究所『出版指標 年報 2025年版』)。割合にして、実に74%の減少です。
「町の書店」のもうひとつの売れ筋がコミックですが、こちらはかなり電子版に流れてしまっている。これは、読者からすると、自宅のスペースの問題も大きいでしょう。少年コミックの人気作品は数十巻にもなりますから、数タイトルで書棚1竿が埋まってしまいかねない。
小説家の立場から言わせてもらえば、コミックは電子で買ってもらって、本棚のスペースは小説のために空けておいてもらえると助かりますが……、書店経営者としてはそうも言っていられません。
コミックを含む紙の書籍の売上は、雑誌と比較すればまだ堅調ではありますが、それでも、最盛期(1996年の1兆931億円)の約半分まで落ち込んでいます(前掲書)。ちなみに、「売上価格」ではなく「売上冊数」で比較しても、雑誌は最盛期と比較して80%弱、書籍は40%強の落ち込みです。


