変動価格制を導入しないワケ
競合他社が変動価格制で利益を拡大する中、なぜあえて「原則ワンプライス」にこだわるのか。黒田麻衣子社長はその理由を、同社が「おなじみさん」と呼ぶ常連ビジネス客を重んじるが故だと話す。
「東横インを40年間支えてくれたのは、いつも利用してくださる『おなじみさん』たちです。その方々が、『いつもの宿なのに、今日はなぜこんなに高いんだ』と価格を見て不安になったり、信頼を損ねることのないようにしたい。そこにこだわっています」(黒田社長、以下同)。
もちろん、原価の高騰に応じてベースの料金自体は値上げしている。しかし、価格を需給に応じて変化させることはしない。「儲けたお金を原資に閑散期に安くする」というダイナミックプライシングの競合他社に対し、東横インは「価格を下げられない代わりに、極端に上げることもない」という方針だ。(早割プランやキャンペーンなどはあり)
そのスタンスがよくわかるエピソードがある。2025年開催された大阪万博の期間中、周辺ホテルの宿泊価格は高騰。東横インも極端な繁忙期になるため、やむを得ず期間中のみ通常価格より値上げした特別料金を採用した。万博終了後、高値を維持するホテルもあったが、東横インでは終了直後に通常価格へと戻した。
「10月、11月は観光シーズンでインバウンドも多く、競合他社は価格を上げたままというところもあったようです。お客さまからは『さすが東横インだね、戻してくれたんだ』という声をいただきました」
インバウンドに頼り切ることはない
一方、「原則ワンプライス」には、弱点もある。多客期は競合よりも安いが、閑散期でも価格を下げられない。実際、例年都内旅行客が少なくなる1月下旬現在、多くのホテルでは料金を下げており、東横インが相対的に高値となっている曜日もある。
しかし、黒田社長は「いつも違う価格ではビジネス客から“定宿”にしてもらえない。どこまで続けられるかは挑戦でもあります」とワンプライスの維持に意欲を見せる。
常連ビジネス客を優先する姿勢は、予約面でも顕著だ。観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2024年度のビジネスホテルの宿泊客における訪日外国人の割合は30~40%だが、東横インでは12~13%と明らかに低い。これも、常連ビジネス客への配慮からだ。
「コロナ禍前までは『積極的にはインバウンドを取らない』という方針でした。海外の団体客で埋めてしまうと、いつものビジネスマンが泊まれなくなってしまうからです。ただ、コロナ禍以降、出張回数も減少していますし、少子高齢化もあり国内需要には限りもある。現在は『インバウンドこそ伸びしろである』という認識であり、受け入れていきたいと考えていますが、インバウンドに頼り切るということはしません」

