ちょっとかわった出店戦略

また、この「変わらなさ」は「いつもの宿」という顧客の安心感にもつながるという。

「お客様からは『朝起きた時、どこの県にいるかわからなくなる』なんて笑われますが、裏を返せば『第二の我が家』なんです。出張でいつもと違う場所で仕事をしてきたビジネス客のお客様に、ホテルの中ではいつもと同じ環境で安心して過ごしていただき、英気を養ってもらいたいのです」。

余談だが、筆者の夫は終電の中で寝過ごしてしまい、終着駅の東横インに度々お世話になっている。都心から離れ、かつ観光地でもない住宅街のど真ん中にあるような駅前にも東横インはあり、夫曰く「青い看板にほっとさせられる」のだとか。そんな“酔っ払いサラリーマン”のニーズも受け止めるのが、周辺都市を狙ういわばドーナツ戦略だ。

「都心の一等地はどうしても高いので、安価な料金を提供できません。私たちが得意なのは、その周辺です。現在も、京都の宇治や長岡京に新店舗を建設中ですが、今後は博多駅周辺なども探したいと思っています」

ビジネスホテル業界では、外資系も含め競合ホテルの出店が相次ぎ、競争は激化している。東横インではニッチを狙う戦略で、現在約7万9000室の客室数を2033年度に10万室に増やし「客室数ナンバーワン維持」を目指す。

併設のレストランがない深いワケ

順調に客室数を増やせているのには、ある意外な要素もある。東横インには、他のホテルには必ずある併設のレストランがない。「夕食は地元のお店でどうぞ」と案内することで、地域と共存共栄の関係を築くことにもつながっているのだ。

近隣にレストランがない「東横INN熊本空港」では、地元の弁当店と提携し、お弁当を販売しているという。
撮影=プレジデントオンライン編集部
近隣にレストランがない「東横INN熊本空港」では、地元の弁当店と提携し、お弁当を販売しているという。

東横インでは、地主にホテルを建ててもらい、それを一棟借りして運営する方式を取っている。グループ内で開発や設計・建築まで手掛けるため工費は抑えられるものの、多額の費用を負担するオーナーとの信頼関係は非常に重要だ。

「東京の会社が地方に出ていくと、どうしても『東京の資本が来た』と警戒されてしまうこともあります。ただ、『うちのお客さんは地域のお店で召し上がっていただくんですよ』と言えることで、オーナーさまに『一緒に地域を盛り上げたい』という思いをお伝えできたことはすごく良かったと思っています」

今年1月、東横インは創立40周年を迎えた。「無料朝食の提供」「空の小型冷蔵庫の設置」など、今やビジネスホテルでは当たり前となっているサービスを生み出してきた。しかし、40年がたち、多くのビジネスホテルが参入し競争は激化。競合ホテルが「眠りに特化」「大浴場が充実」といった付加価値を売りにするなか、いかに東横インとして強みを打ち出していくのか。模索が続いている。

「一番スタンダードな私たちが、一番差別化できていないという課題は感じています。価格だけで選ばれるようならいずれダメになりますから。『アクセスナンバーワン』と言っているのですが、駅前の立地でのアクセスのしやすさや、予約のしやすさという点は強みとして伸ばしていきたいです」