売り上げは過去最高を記録
外国人観光客に依存しない戦略には、リスクヘッジの意味合いもある。2025年11月、高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言に反発した中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけ、団体旅行のキャンセルが相次いだ。東横インでも中国人団体客を受け入れていた空港付近の店舗ではキャンセルが出たものの、全社的には限定的な影響にとどまっているという。
黒田社長は「外国人観光客にとって日本はリピートしてもらえる国だと思っています。東横インもリピーターになってもらいたい。日本全国を周遊する方もいると聞くので、全国に店舗があるというネットワークを生かして、東横INNから東横INNへと宿泊してもらえれば」と意気込む。
これだけ逆張り的な経営だが、東横インの経営状況は好調だ。コロナ禍で大幅な落ち込みとなったが、2023年(3月期売上)は807億円、2024年(同)は1228億円、2025年(同)は過去最高の1439億円となっている。
短期的な利益増が見込めるインバウンドより、常連ビジネス客との縁を大切にする。一見遠回りなようだが、創業100年以上の老舗企業が世界で最も多い日本においては、その企業の「出張の際の定宿」というポジションを確立することが、リスクに強い安定的な収益に直結している。
クロちゃんが困惑した「同じ部屋」の意味
ところで、東横インに複数回宿泊したことがある人ならわかるだろう。東横インは、北海道から沖縄まで、部屋のレイアウト、家具、照明に至るまで、ほぼ同じ仕様だ。
かつて「水曜日のダウンタウン」(TBS系)で、お笑いトリオ「安田大サーカス」のクロちゃんが泥酔して寝ている間に茨城の東横インから赤羽の東横インに運び、翌朝気づくかどうか検証した企画もあったほど。ちなみにこの企画では、クロちゃんはホテルを出るまで移動したことにまったく気づかなかった。この「金太郎飴」のような客室づくりにも、コスト競争力を生み出す秘密がある。
「同じ作りだからこそ、メンテナンスや改装が早く、安くできます。グループ会社に内装工事部門や電気設備部門があり、約7万9000室を同じ規格で作っているため、部材の調達コストも抑えられます。躯体ができあがれば、内装は3カ月程度で完成させられるので、店舗を開業する際にもメリットがあります」
店舗ごとに規格が異なれば、修繕のたびに特注の部材が必要になり、工期も伸びる。同じ規格を採用し、グループ会社内で完結することで、建築費が高騰し人手不足が深刻化する中でも、安価でスピーディーな修繕が可能に。これがリーズナブルな宿泊価格を維持できる原資となっている。

