「配信」に照準を合わせた戦略

読者のなかには、この現象を見て「テレビ局に対する事務所の力が、昔ほど強くなくなったからではないか」と考える人もいるだろう。

しかし、それは早計である。これを許している、いや「あえてやっている」のは、芸能プロのほうだ。そしてそこには、研音の社長・冨田賢太郎の“俳優ブランドを主軸に据える”という戦略が明確に打ち出されている。

ホリプロが「作品(コンテンツ)」を資産とするのに対し、研音はあくまで「タレント(人間)」を“価値の源泉”とみなす投資スタイルを採っている。天海祐希や反町隆史といった「主役級の俳優」のマネジメントに特化し、舞台そのものを製作するよりは、外部の有力な製作(映画、舞台、テレビなど)にタレントを送り込むことで、自らのブランド価値を維持・向上させている。

では、なぜ彼らは、かつては「タブー」とされたやり方を変えたのか。そこに、大手芸能プロのしたたかな戦略と思惑がある。

答えは、「配信」という大きな目的に照準を合わせるためである。

彼らは、地上波を「俳優のステータス確立と顔を売るための宣伝媒体」と割り切っている。俳優自身にとっては「主役を張れる」ことが大きなステータスであり、同時に芸能プロにとっては「裏被り」するほど“キャストの厚み”を示すアピールにもなる。そんな“便利な”場に、地上波テレビはなり下がったのだ。

サブスクリプションサービスで、見たい番組をリモコン操作し、選んでいる手元
写真=iStock.com/MilosCirkovic
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地上波で主役歴を刻み、配信で回遊を回収する

そしてこの流れは、配信サイドにとっては、まさに追い風だ。

地上波で“毎週観る習慣”を焼きつけた俳優は、配信プラットフォームにとって最も回収効率の高い“戦略資源”へと変わる。テレビで獲得した認知と信頼を、配信の作品ラインナップへそのまま滑らかに移行させる。――この新しい「循環」こそが、現在のドラマキャスティングに見られる、一見“いびつな”配置の“裏側”にある真実だ。

だが、芸能プロが「視聴率」の代わりに取りに行っているのは、作品単体のPVではない。PVは再生数が積み上がるだけで、完走率にも回遊にもつながりにくい。勝敗を決めるのは、「俳優×ジャンル」の掛け合わせで、視聴者の“棚”をどれだけ広く、深く押さえられるかだ。

ここでいう“棚”とは、「この俳優が出るなら観る」という視聴者の指名視聴=嗜好のことである。その“棚”を最初に作る装置が“地上波”であり、その棚を回収する装置が“配信”というわけだ。

地上波で主役歴を刻み、配信で回遊を回収する――この二つが一本の経路で結ばれた結果、キャスティングは“作品を選ぶ”行為ではなく、俳優の動線そのものを設計する作業へと変わった。

この構造変化は、俳優自身の動きにも現れ始めている。その象徴が、山田孝之が立ち上げた「THE OPEN CALL」である。俳優が自ら企画を主導し、配信(Lemino)でプロセス自体を公開しながら、主演・脚本・制作に踏み込むこの取り組みは、俳優が“流通される側”から“流通を設計する側”へと移り始めた新しい時代の兆しだ。俳優の存在は、作品の部品ではなく、配信が生み出す経済の“核”へと変わりつつある。