1つ目は視聴ターゲットの問題だ。2時間サスペンスは視聴率自体はそこそこ取れるものの、視聴者層は高齢寄りになりがちで、生活必需品、自動車、住宅、金融、家電など、広告主が重視する購買力の高い層、いわゆるコア(13〜49歳)とはズレが生じている。地上波による広告費収入が激減するなか、マーケティング指標としての「コア視聴率」はますます重視され、その層への訴求力が弱いジャンルは編成上、厳しい判断を迫られる。
2つ目は配信の影響だ。地上波放送後の“二次利用”として番組を配信に回そうとしても、1本や2本では収益性が低い。2時間サスペンスは基本的に一話完結の単発ドラマであるため、複数話を束ねて配信することが難しく、配信の特性である「まとめ視聴」にもつながりにくい。結果として需要が伸びない。
だが、その反面、2時間サスペンスドラマには根強いファンがいる。再放送をすると、意外なほど数字を取ることも珍しくない。私がフジテレビで「ザ・ノンフィクション」に携わっていたころ、同時間帯の日曜午後にテレビ東京が「女と愛とミステリー」の再放送を編成していて、フジの局プロデューサーが「テレ東のサスペンスは強敵だ」とぼやいていたのを思い出す。
「テレビが難しいなら、映画でやる」
こうした事情と歴史を踏まえて企画されたのが、ホリプロ制作の「2時間サスペンス THE MOVIE」である。隆盛を極めたサスペンスドラマの新たな可能性を、テレビではなく映画館という舞台で届けたいという発想は立派だ。
「灯を消さないためには新作が必要。テレビが難しいなら、映画でやる」
菅井はそう宣言しているが、言葉どおりの覚悟を感じる。もっとも、大手芸能プロのトップである以上、心意気やノスタルジーだけでリスクを冒すのは許されない。だが、私は菅井には勝算があると観ている。それは2つの根拠があるからだ。
1つ目は、ホリプロが抱える実力派の俳優層。
「2時間サスペンス THE MOVIE」第1弾「テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル」は、名取裕子×右近のW主演。第2弾は、「2時間ドラマの帝王」と称される船越英一郎の主演作として進行中である。名取、船越、両者ともホリプログループ所属。さらに言えば、「2時間ドラマの女王」片平なぎさもホリプロだ。2時間ドラマを長年見てきた視聴者にとって、これ以上ないほど“顔が見える”キャスティングが可能なのは、大きなアドバンテージである。
もう1つは、ホリプロが自前の制作部門を持っていること。
菅井自身、多くのタレントや俳優のマネージャーを務め、叩き上げで制作現場を経験してきた人物で、ドラマ制作部門を長年率いてきた。自社で制作すれば著作権が確保できることを知り尽くしている。

