自社タレント、自社資金、自社作品の循環
再上映や配信に展開するたびに収益が積み上がる構造を作れる点は、極めて現実的かつ堅実だ。自社のタレントを起用し、自社で資金を投じ、自社で作品を持つ。その循環を回せるのがホリプロの強みなのである。
しかし、私が最も注目しているのは、菅井のマネジメント的な手腕だ。
本シリーズは製作委員会方式に、BS日本と日本映画放送の“共同出資スキーム”を組み合わせた複合型の制作体制である。報道によれば、幹事と制作・配給を担うのはホリプロだが、共同配給には、全国に約100館のイオンシネマを持つ映画館チェーンが入り、二次利用(放送権やパッケージ販売)は専門会社・ミツウロコが担当する。配給・回収・権利運用まで“出口を先に設計した”手堅い体制を、菅井が主導して組み上げた。
この企画の本質は、単なる「2時間サスペンスの映画化」ではない。むしろ、映画館という空間を、もう一度「安心して身を委ねられる物語」を体験する場として“再定義する”試みだと私は見ている。配信ではなく、テレビでもなく、わざわざ足を運んで観る2時間サスペンス。内容はある程度想像がつく。だが、その予定調和を楽しみに行く観客は確実に存在する。
「視聴率」だけを追わない
地上波では「コア視聴率が取れない」と切り捨てられてきた層が、映画館ビジネスにおいては、時間とお金を持つ優良な観客層に転じる可能性もある。平日昼間の上映を埋められるコンテンツとしても、映画館側にとって無視できない存在になるかもしれない。要は、地上波では“編成上の理由で切り捨てられたジャンル”を、別の器(映画や配信)で再生させ、観客を回収しようとする発想だ。
このように、ホリプロは自社の所属俳優でコンテンツに投資し、IP(著作権)ビジネスに参入しようとしている。この布石は長年、通称「ハリポタ」の舞台で培ってきたものだ。
舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、総観客数130万人を突破し、通算1300回公演を達成した超ロングラン舞台である。2022年の開幕から4年半にわたりTBS赤坂ACTシアターを満席にし続け、赤坂の街全体を“ハリポタの聖地”へと変貌させ、ビジネス面でも稀有な成功例となった。
今クールのドラマで顕著に
以上に述べてきたような動きは、芸能界が新しい時代に突入したことを示唆している。同じような流れは、今クールのほかのドラマにも顕著に表れている。なかでも私が注視しているのは、大手芸能プロ・研音の動きだ。
日テレ水10「冬のなんかさ、春のなんかね」は、主演が杉咲花。同時間帯のフジ水10「ラムネモンキー」は、トリプル主演で反町隆史、大森南朋、津田健次郎が務めている。これは、研音所属の若手俳優・杉咲と大御所俳優・反町を“真裏”に配置して競合させている構図である。
このパターンもこれまでは「タブー」とされ、あり得なかった。「視聴率を食い合う」と避けてきたからだ。しかし、かつてのように地上波において高視聴率が望めなくなり、それによって視聴率は「二の次」の存在になった。では、その代わりに芸能プロは何を“取りに行く”ようになったのか。その答えこそが、本論の核心である。

