権限ではなく共感で動かす

かつての組織は、「命令と服従」で動いていた。しかし現代は、年齢も職種も国籍も異なるメンバーがオンライン・対面の両方で協働する時代だ。立場だけで人は動かない。

問われているのは「この人の言葉なら耳を傾けたくなる」という信頼と共感だ。共感とは単なる優しさではない。相手の立場に立ち、行動の意味を伝え、誠実に振る舞う力である。

あるリーダーは、プロジェクトが行き詰まったときに次のように語った。

「たしかにいまは進みが遅く、フラストレーションを感じる人もいるかもしれない。でも、この遅れは『チームで納得して進む』ために必要な時間だと思っている。無理やり進めてあとで壊すより、いま丁寧に確認し合おう」

この一言で、メンバーの緊張が解けて表情が変わったという。

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これはコミュニケーションスキルのなかでも高度な「リフレーミング」の好例である。

リフレーミングとは、「フレーム(額縁)」を変えること。つまり、物事の認知の枠組みを変えて、出来事や状況を新たに意味づけすることを指す。

「傾聴」や「質問力」と同じ、コミュニケーションスキルの一つであり、とくに「感情マネジメント」や「モチベーション喚起」に直結する高次の技法だ。

今回の例では、停滞している状況を「問題のある遅れ」から「チームの合意形成に必要な時間」へと再定義することで、メンバーの感情をほぐし、行動を促している。

コミュニケーションはスキルの集合体

「コミュニケーション」と一口にいっても、それは多様なスキルの集合体だ。プレゼン、交渉、会議ファシリテーション、1on1面談、ストーリーテリング、メディアインタビュー……。

場面ごと、目的ごとに最適なスキルを組み合わせ、設計して、使い分けるのがコミュニケーション・デザインである。

こうした細分化はとくにローコンテクスト文化圏(言葉で明確に伝えることが重視される社会)で発達してきた。

しかし日本では、「あうんの呼吸」に代表されるように、同じ文脈を共有しているがゆえに相手を察する文化が強く、コミュニケーションスキルが細分化されていることに気づかない人も多い。

そのため、「話がうまい人」や「ムードメーカー」といったわかりやすい印象だけで評価されがちだ。コミュニケーションによって相手の理解をどれだけ引き出せたか、関係性をどれだけ築けたかといった本質の部分が軽視されやすいのだ。

結果として、訓練可能なスキルではなく、その人固有の才能や性格の延長で片づけられ、本質的なスキル開発があと回しになることも少なくない。

一方、欧米やアジアのプロフェッショナルは、これらをスキルとして体系的に訓練している。生まれつきの才能と捉えるのではなく、学習と実践の結果として習得しているのだ。