事実と自分の希望を率直に伝える方法
グローバル人材が身につけているコミュニケーションスキル群のなかの一つが、アサーティブ・コミュニケーションだ。攻撃的でも受け身でもなく、事実と自分の希望を率直に伝える方法であり、異文化に身を置く相手と信頼関係を築くために重要なスキルである。
海外留学先で起こった事例を用いて解説しよう。
イギリスでのホームステイ初日。研修生がホストマザーに案内された部屋は、隣の部屋の半分ほどの狭さだった。スーツケースを開けるのにも苦労しそうだ。隣は空き部屋のままだった。
日本のコーディネーターに連絡が入り、「なぜ広い部屋を使わせてくれないのか」と聞かれたコーディネーターはこう答えた。
「ホストマザーに直接聞いてみましょう。出発前のオリエンテーションで紹介したアサーティブ・コミュニケーションを覚えていますか? 異文化の環境でアサーティブ・コミュニケーションの練習をすると思って、ぜひやってみましょう」
3日後、研修生は勇気を出してホストマザーに質問した。
「なぜ自分は隣にある広い部屋を使えないのですか?」
返ってきた答えは意外なものだった。
「広い部屋はインターネットの接続環境が悪い。あなたは事前アンケートでインターネットの接続環境を重視すると書いてあったから、この部屋にしたんだ。でも広い部屋のほうが良ければ移っていいよ」
間接的に伝えることで信頼が崩れる
実は、ホストマザーはインターネット環境を重視する研修生の希望を踏まえた判断で、小さい部屋を選んでいたのだ。
こうして誤解は解けた。本人が直接伝えたからこそ、すぐに理由が明らかになり、解決につながったのだ。しかし、もしこの不満をホストマザーに直接ではなく、コーディネーター経由で伝えていたらどうだろう。
ホストファミリーには「陰で不満を広げるアンフェアな人」と映り、信頼は簡単に崩れていただろう。この事例からは、異文化環境でのアサーティブ・コミュニケーションに関して3つの重要な示唆が得られる。
信頼構築の武器としてのアサーティブ・コミュニケーション
攻撃的でも受け身でもなく、相手と自分の双方の立場を尊重しながら事実と希望を率直に伝えることが、異文化における長期的な関係維持に不可欠。
直接型と間接型のギャップへの対応
日本的な間接表現は国内では問題ないが、欧米では「回りくどい」「正直でない」と評価されやすい。文化の前提を理解し、伝え方を設計することで誤解を防ぐ。
現場で試すことで設計力が磨かれる
事前研修で学んだスキルや異文化理解は、現場で使うことで初めて自分のものになる。学びと実践を往復させることが、コミュニケーション・デザインの力を高める方法だ。

