円安で「伸びているように見える」だけ

つまり、一見順調に伸びているようにみえた一人当たり消費額は、インフレと円安で押し上げられていただけということだ。これは、観光客の自国通貨で考えたとき、一人一人の財布から出ている(実質的な)金額がほぼ増えていないことを意味する。

実際、ドル円相場が概ね1ドル150円前後での推移が定着した2023年以降、一人当たりの実質消費額はほぼ横ばいで推移している。

為替相場を予測することは容易ではないが、日米の金融政策の方向感の違いを踏まえれば、中期的にはドル円相場は緩やかな円高方向で推移することが見込まれる。金融市場は本稿執筆時点(2026年2月9日)で、2026年内に日銀による2回の利上げを織り込んでいる一方、米連邦準備理事会(FRB)については2回の利下げを織り込んでいる。両国の金利差の縮小が、今後の円高圧力となるだろう。

この場合、これまでの傾向が続けば、一人当たりのインバウンド消費額も減少傾向を辿ることになるだろう。当然、2025年末以降急速に円安が進んだように、円安トレンドが続く可能性も否定はできない。しかしそれは、裏を返せば、急激に円高方向へ振れる可能性もあるということだ。

いずれにせよ、これまで円安頼みで成長してきたインバウンド消費にとって、為替相場の変動が大きなリスク要因となることは間違いない。

1万円、日本紙幣
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旅行者数を追い求めるのは限界

特定の国との関係悪化や為替相場の変動を乗り越え、日本のインバウンド産業が今後も持続的に成長していくためには、訪日観光客一人当たりの実質的な消費を増やす必要がある。そのためには、日本としての観光戦略を再考する必要があるのではないだろうか。

日本政府は観光立国推進基本法に基づき、2030年に訪日外国人旅行者数を6000万人、インバウンド消費額を15兆円まで拡大するという目標を掲げている。2025年の実績は旅行者数4200万人、消費額9.5兆円であるため、5年で旅行者数は40%以上、消費額は50%以上伸ばす必要がある。

しかし、6000万人という旅行者数の目標達成は容易ではない。今般の日中関係の悪化を踏まえると当面は訪日外国人の大幅な増加は期待しがたいというだけでなく、そもそも日本の観光地が持つ観光客の受け入れ能力の上限が近いとみられるためだ。

観光客の増加が観光地のキャパシティを上回ると、交通渋滞の発生やゴミ・騒音などのマナー違反などによって、地域住民の生活や自然環境に負の影響を及ぼす。オーバーツーリズムと呼ばれるこうした問題は、フランスやイタリア、スペインといった欧州の観光大国で大きな問題となっている。一部地域では、不満を抱えた住民によって、観光客に対する大規模な反対デモが行われているほどだ。