不正会計は会社全体の利益率を徐々に蝕む
数ある循環取引の中でもこの事件が非常に巧妙だったのは、不正の発覚を避けるため、売掛金や棚卸資産の回転期間といった多くの財務指標が、意図的に正常範囲内にコントロールされていた点です。後から財務諸表を分析しても、不正の発見は極めて困難でした。
しかし、唯一、この完璧な偽装の中に、かすかな綻びが生まれていました。それが、粗利率の長期的な低下です。
データを見ると、売上高は順調に伸びているにもかかわらず、会社の基本的な儲ける力である粗利率が、毎年少しずつ、しかし確実に低下しているのがわかります。
これは、売上をかさ増ししていた「循環取引」が、ほとんど利益の出ない(利益率1%程度)取引だったためです。この低収益の架空売上の割合が年々増えることで、会社全体の利益率が徐々に蝕まれていったのです。
では、我々はこうした不正をどう見抜けばいいのでしょうか。次のポイントが重要です。
・売掛金の異常な増加(売上は伸びているのに、現金回収が追いついていない)
・在庫の異常な増加(不良在庫や、資産を水増しする架空在庫の可能性)
・利益と営業キャッシュ・フローの乖離(利益額に対して手元の現金が増えていない)
・監査法人の頻繁な交代(意見対立があった可能性)
オルツの売上推移の「不審点」
オルツのケースではどうだったのか、主に売上や売掛金、監査法人の状況について、見てみたいと思います。
オルツの売上や売掛金の推移を見てみると、売上は、2020年12月期から2024年12月期までの5年間で約110倍(約5500万円→約60億円)、売掛金は2021年12月期から見ると5.8倍とそこまで乖離はありません。
ただ、ここで気になる点がありました。それが前受金です。売掛金が商品・サービスの提供後に受け取るお金である一方、前受金とは、商品・サービスの提供前に受け取るお金のことです。
オルツの前受金は4年間で2倍程度にしか成長していません。同社の主力商品はAI議事録作成サービスで、年額契約と月額契約があります。年額契約であれば、支払が先になるので、前受金の額は大きくなるはずです。しかし、この前受金の状況から鑑みると、ほとんどの契約が月額契約だったのではないかと想像されますが、結果論にはなるものの、やや苦しい説明です。



