客観視を得られる「日記療法」の力
語る力がつくと、前向きになれることを新井医師は彼からしっかりと感じた。
「今、彼は『僕は、心から高校を卒業したいと思っています』と言っています。とても意欲的に、将来への夢を持ったことがすごく伝わってきましたね。最初は治療が難しかったのに、憑き物が取れた感じです。そもそも彼は喋ったところで、聞いてくれる人がいない環境で育ったわけです。のびのびと安心して、大切に扱われる環境で育ったら、ちゃんと喋れていますから」
この日記療法は、「森田療法」を参考にしているという。森田療法とは1919年、東京慈恵医大精神神経科の森田正馬氏が作り出した、神経症に対する精神療法だ。不安や恐怖、苦悩は生きる欲望ゆえに起こると理解し、不安や恐怖、苦悩を受容し、生きる欲望の発揮を重視するというものである。その治療の一環に、日記療法がある。
「日記は、すごく意味があると思いますね。この日記のポイントは夜、寝る前に一日を振り返って書くことなので、その時の気持ちではなく、時間が経っているため、出来事を客観的に書けるんです。これまでは怒りとか悲しみとか、その瞬間の感情という主観的な視点しかなかったわけですが、そうした主観的な自分に対して、客観的な自分を同時に見ることができるようになるわけです」

