アメリカでは、高校を卒業すると親元を離れるのが一般的だ。追跡調査をした時期は20歳前後なので、親元を離れていたと考えられる。つまり、自分で栄養バランスのいい食事を選択できているということだ。親が「野菜を食べなさい」と子供に言っていたかどうかはわからないものの、一緒に食事をすることで好ましい食習慣が身に付くようになるというわけだ。

「お父さんもお母さんも忙しいので、みんなが揃って食べるのは難しいかもしれません。ただ、誰かしらが一緒に食べる。子供1人で食べさせることは避けてほしいと思います」

そして、みんなが揃う食事は、とびきり楽しい時間にする。「みんなで一緒に食べるとおいしい」「楽しい」と思えるような“共食観”を育てることが大切だという。

「20年くらい前になるのですが、子供の共食観を調査したことがあります。するとやはり、毎日のように家族で食べている子は『一緒に食べたい』と言うのです。一緒に食べる頻度が減っていくと、だんだん『どちらでもいい』と回答する子が増えてくる。しかし、週に1回くらいしか食べていない子の中にも、『一緒に食べることは大切だから、なるべく毎日揃って食べたい』という子がいるのです。その子に詳しく理由を聞いたら、『一緒のときは楽しいから』『めったに一緒に食べられないから、大切にしたい』と話してくれました。回数ではなく、質が大切なのです」

では、質を上げるために必要なこととは何か? 武見先生はこう言う。

「まず、家族団らんの食卓では小言をやめる。学校や勉強のことなど親から聞きたいことがあっても、そこはグッと我慢。親は聞き役に回り、子供が自然と話したくなるような雰囲気づくりに努めるのです。これを私の研究室では『自発的コミュニケーション』と言い、助教の衞藤久美先生が研究していますが、彼女の調査によると、子供が食事中に自発的にコミュニケーションを取っていると、栄養の摂取状況や、食事づくりの手伝いなどの食行動、家族関係、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)も良好であることがわかりました」

食卓での会話を楽しいものにするには、「料理づくりから子供を参加させるのも1つの手」。たとえばギョーザだったら、包むのを手伝ってもらう。食べるときに「これは○○ちゃんが包んでくれたのよ」と言えば、会話のきっかけになるし、子供にとっても思い入れのある食事になる。材料を一緒に買い出しに行って選ばせたり、配膳を手伝わせたり、子供が関われることはたくさんある。「野菜嫌いの子でも、自分が調理した野菜はおいしく食べられるという話をよく聞きます。食事はつくる過程も含めておいしいと感じるもの。外食調理品を利用すると、せっかくのチャンスを失います。それは本当にもったいないことなんですよ」

武見ゆかり
女子栄養大学食生態学研究室教授。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業。1988年、女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。専門は食生態学、栄養教育学、公衆栄養学。編著に『「食育」ってなに?』がある。
(遠藤素子=撮影 教える人:武見ゆかり)
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