今年もノーベル賞発表の季節になりました。毎年この時期になると、村上春樹さんのノーベル文学賞の当落が話題になります。小説を読まない人も気になる国民的作家、村上春樹。その虚像と実像に迫った『謎の村上春樹』の著者、助川幸逸郎氏が「半沢直樹」「小泉今日子(あまちゃん)」「東京五輪」「宮崎駿」といった2013年のキーワード、キーパーソンで村上春樹を語ります。

【助川幸逸郎】このほど『謎の村上春樹』という本を書いたのですが、私のなかの最近のもう1つの謎が小泉今日子です。NHKの『あまちゃん』でも独特の存在感を出していましたが、彼女って不思議なタレントですよね。歌が抜群にうまいわけじゃないし、演技力が突出しているわけでもない。ふつう、そういう芸能人は「世渡りがうまいだけ」などと言われてすごく軽く見られます。でも小泉今日子は全然軽んじられている感じがないんですよ。

バブルの頃はそのど真ん中にいて、『活人』というやたら装丁の豪華な2号くらいで廃刊になったカルチャー誌があったんですが、その表紙に小泉今日子が全身真っ黒に塗りたくって出ていたのを覚えています。かと思ったら、いつの間にか地味な読書好きのお姉さんになってエッセイ集を出したりして、いまや「なりたい40代ナンバーワン」。ポジショニングの移動が絶妙なんです。彼女を見ていると村上春樹とだぶるんですよ。たとえば春樹はカポーティとかフィッツジェラルドといった名文家が好きなわりには、決して無駄な名文は書きませんよね。

――わかりやすくて破たんがない、よみやすい文章ではありますが。

【助川】じゃあ、誰も思い付かないような大胆なストーリー展開があったり、鮮烈なイメージがあったりするかというと、意外にそうでもない。そういう意味では小川洋子なんかのほうが面白いかもしれないし、ほかにも彼と世代の近いすごい作家がいるのに、気がつくとなぜか彼だけがものすごく読まれている。それは本人が着実にちょっとずつ変わっていっているからだと思うんです。小泉今日子のように。どこか突出してすごいところがあるわけではないのに、気がついたらとてつもなくビッグになっていて、何をやっても軽んじられないという立ち位置です。