今年もノーベル賞発表の季節になりました。毎年この時期になると、村上春樹さんのノーベル文学賞の当落が話題になります。小説を読まない人も気になる国民的作家、村上春樹。その虚像と実像に迫った『謎の村上春樹』の著者、助川幸逸郎氏が「半沢直樹」「小泉今日子(あまちゃん)」「東京五輪」「宮崎駿」といった2013年のキーワード、キーパーソンで村上春樹を語ります。
――イメージコントロールといえば記憶に新しいのが東京五輪招致のプレゼンです。日本が開催地となりえたのは、徹底的にIOCの方々に合わせてプレゼンしたからと言われていますよね。村上春樹も欧米のオーディエンスをすごく意識しているところがありますよね。目指すマーケットに向けて何をやったらいいかというのがわかっている。アート界の村上隆もそうですけど。
【助川幸逸郎】村上隆はこんなふうに言っていますね。ハイアートっていうのは大金持ち相手、昔だったら貴族、いまなら政府や新興国の大金持ちといった相手にうまくアピールできる人で、大衆から薄く広く金を集めるのが大衆芸術をやる人なんだと。村上隆は前者。そこでは美術の歴史的コンテクストというのを作っているから、ニューヨークの美術館のキュレーターなどにどれだけ認められるかっていうゲームをやっている。コンテクストを読み込んで、じゃあいまここに向かって球を打って評価されれば歴史に残るなという線を狙ってやっているんだと。だから、いますぐ有名にならなくても、その中で一定のポジショニングを確保すると、100年後でも作品が残っている。身も蓋もないけど「残る」というのはそういうことですよね。
――村上春樹もそういうことですか。
【助川】本の場合は、純文学といってもある程度のマスに受けないとやっぱりダメですから、そこはちょっと違うかもしれません。ハイアートって高等数学みたいなところがありますよね。世界ですごい5人が認めればフィールズ賞を取れるとか。どこがいいのかわからないんだけど、とにかくニューヨークで1番の美術商とキュレーターと、ドバイの大金持ちが認めちゃったら、「これが現代美術の最先端です」となる。きわめて単純化して言うとそういうことです。