――「村上春樹、小泉今日子説」の文脈で言うと、キョンキョンも村上さんも「病まない」ところが似ていますよね。病まないし、グレない。

【助川】村上春樹は早起きして走ったりして、規則正しい生活を送っていることはよく知られていますが、「読者が自分なりにカスタマイズできる物語」が求められるようになった時代に、春樹のこのライフスタイルは非常に有利です。そのあたりは本にも書きました。春樹の場合は意識的、戦略的なところが見受けられますが、小泉今日子が病んでいないのは奇跡的ですね。

バブルのときにウケた人って程度の差はあれ病み系に走りがちです。松田聖子みたいに全盛期がバブル前だった人とは根っこが違う気がします。ほんの数年の違いですが、あのズレは大きい。だから小泉今日子が病まないですんだというのは非常に面白い点ですね。これ以上同じ路線で行ったら痛いっていうところで、突き進まずにクッと曲がれる。

――なぜそういう方向転換ができるんでしょう。

【助川】2人ともわりと自分に固執してないんですよ。自分のペースは守っているけど、最終的に自己表現とか自己実現に取りつかれていない。村上さんも自分で言っていますよね。「自己なんて幻でラッキョウの皮むきなんだ」って。長く残っていくためには、「本当の自分って何?」ということよりも、その時代その時代でおかしなことをしないことのほうが大事なのかもしれません。

――村上春樹は小泉今日子に比べると、ひとクセある感じがありますけどね。

【助川】なんか陰で巨大な闇がありそうな感じはしますよね(笑)。彼は自分で不健全な人間だって認めていますし。「人間の意識のそこにある地下2階」という言い方で、人間心理の深層にある闇みたいなものへの興味を語っています。風貌からはあまり闇という感じもしませんが、書てるものから「あちら側」が垣間見える怖さがあります。