――「村上春樹、小泉今日子説」ですね。

【助川】突出していない、ということは意外に大事なことなんです。あらゆる商品にはオーバークオリティの問題があると思うんですね。消費者が気づかないか、気づいてもとくに喜ばないようなところでクオリティがやたら高いという。日本の家電なんか典型的ですよね。もちろんある一定のところまでは品質がよくないとダメですが、一般的な消費者が「そこまで豪華にされてもわかんないよ」というところで技術者だけがわかるようなすごさを出すというのはさすがにやりすぎだと思います。

――このあいだ楠木建先生が講演で、十六茶が売れたから、といって、十七茶とか二十一茶とか次々に出して、どうやら二十四茶ぐらいまでいっているという話をされていました。もはや何が入っているか飲んでいる人もわからないという。差別化しようとして真逆の方向に全力で向かっていると。

【助川】よくミュージシャンズ・ミュージシャンをあまり尊敬するなっていいますよね。ミュージシャンは、自分が弾けないようなものすごいスピードでギターが弾けるとかいうところをすごく尊敬しちゃうわけですよ。だけど、普通に聴かせるテクニックがあれば、あとはお客さんが喜ぶツボをちゃんと的確に押さえられるほうが偉いわけですよね。超絶技巧にはしるよりも。

――ミック・ジャガーも歌は下手だったといいますしね。

【助川】うん(笑)。そういう意味でいうと、村上春樹も無駄にオーバークオリティなことをやっていないということが言えると思うんですよね。

――顧客志向であると。

【助川】文章マニアだけが気にするようなところにこだわるようなところが村上春樹にはないんです。力を入れるところと抜くとこのバランスがすごくいい。

――過不足がない。

【助川】ないですね。小泉今日子だって歌が下手だとか演技が下手だとか言う人もいるけれど、一般の視聴者はそんなこと気にしてませんよね。なんとなく小泉今日子が小泉今日子らしくやっていると、みんながホッとするという。彼女はさらに進化して、小泉今日子をあまりうまくやらないでも許されるポジションまで行っちゃったわけですけど。