わずか7人で企業価値20億ドルに達した集団
「僕たちはチャットで、1人の企業が企業価値10億ドルを超える『1人ユニコーン』の時代が来ると予測し合った。AIなしでは想像すらできなかったが、いずれ実現するだろう」
2023年10月、OpenAIのCEOサム・アルトマンがインタビューで語った言葉は、驚きをもってシリコンバレーを駆け巡った。その直後、わずか7人のメンバーで構成されたCognition AIが誕生する。創業から半年後の2024年4月には巨額の資金を調達し、非上場のまま企業価値20億ドルに達する。その勢いは止まらず、2025年9月には100億ドルを超えた。
創業メンバーのウー、ハオ、ヤンは、いずれも国際情報オリンピック(世界最高峰の学生向けプログラミング競技)の金メダリスト。チーム全体で合計10個の金メダルを保有する、まさに天才集団である。
AIは彼らにとって単なる道具ではない。AIをチームメイトに迎え、対話と協働を重ねた先に生まれたのが、世界初の完全自律型AIエージェント「Devin」だった。目標達成のために最適な手段を自律的に選びタスクを遂行する――AIエージェントは生成AIの次を担う革新的テクノロジーであり、Devinはその先駆けとなるプロダクトである。
スタートアップで注目の「タイニーチーム」
若き技術者と投資家が描く、新しい未来図への熱狂。それは、30年前――インターネットの幕があけたときの高揚を想起させる。1995年、わずか16カ月で上場し、29億ドルの時価総額を記録した、マーク・アンドリーセン率いるNetscape Communicationsだ。
しかし、ウー率いるCognition AIとNetscapeを比較すると、組織の規模に大きな違いがあることがわかる。
世界を変える驚異的な「少数精鋭集団」――。スタートアップ業界では、Cognition AIのようなチームを「タイニーチーム」と呼びはじめた。いまやこの潮流は加速し、同様のチームが次々と誕生している。
その多くはAI開発・プラットフォーム系だ。例えば、Anysphere(米国、2022年設立)は、わずか12人のチームでAIコーディングツール「Cursor」を開発し、現在、社員数150名で企業価値は約100億ドルに到達した。マーケティングコストはゼロで、ChatGPTを超えるペースで100万人のユーザーを獲得している。
他にも、Perplexity AI(2022年設立、約60名、同180億ドル、AI検索)、Magic(2022年設立、約20名、企業価値15億ドル、AIコーディングツール)、Skild AI(2023年設立、約20名、同15億ドル、ロボティクス)、WorldLabs(2024年設立、約30名、同10億ドル、3D-AIモデル)と新鋭チームが続いている。中には資金調達なしで急成長するMidjourneyや、10名以下にこだわり続けるGumloopのようなスタートアップも登場してきた。


