なぜ西友を買収したのか

トライアルHDの創業は1974年。福岡市に古物商、リサイクルショップとして「あさひ屋」を開業したのが創業です。躍進のきっかけとなったのが、01年から始まった居抜き物件への出店です。GMS(総合量販店)撤退後の物件に、トライアルが居抜きで出店をするというやり方です。

投資も抑えられ、内装に手を加えれば新規出店できます。トライアルは九州を地盤にしながら、高度経済成長期に広がったGMS撤退後、空いた物件に入居する形で出店を続け、一気に成長企業へと進化していったのです。

トライアルは増収増益であり、24期連続増収という好調な経営状況です。ディスカウント業態のため利益率は低いですが、当期純利益も141%ですので出店やデジタル投資も含めて積極的に取り組んでいる中ではかなりの好業績をたたきだしている企業です。

このトライアルが西友を買収した狙いは「首都圏の好立地にある西友の店舗」と「西友のPC(プロセスセンター)である製造工場」を手中に入れることでした。比較的所得レベルが高く、周辺に肥沃な人口を抱える立地に西友は店舗展開しています。それらの店がトライアルのオペレーションに変わることで、販管費が下がり、利益が出やすくなる可能性は高いと思います。

そして、都心にある西友の店舗利益をかさ上げすることができる可能性に貢献する業態がミニスーパーのトライアルGOなのです。

だから見た目は「特徴のない店」に

西友を母店にして弁当や総菜をトライアルGOに配送する仕組みで、トライアルGOはバックヤードをほぼ持たずに店舗運営できますので、賃貸物件の面積が多少小さくても出店することができ、物件確保でも有利に働きます。

実際に総菜の供給は、西友の豊玉南店、吉祥寺店、阿佐ヶ谷店の近隣3店舗を母店として行っているようです。

一部の弁当やトライアル名物の「たまごサンド」などのサンドイッチ類は、トライアルが新設した「大宮CK」(埼玉県さいたま市)から。デザート類は「益子PC」(栃木県益子町)、チルド総菜は西友の「埼玉工場」(埼玉県川越市)、精肉は「筑西PC」(茨城県筑西市)から。このように、自社ないし西友のセントラルキッチンやプロセスセンターを活用することで、工場の稼働率を上げて、製造面での収益性を上げていくための役割もトライアルGOは持っています。

つまりトライアルは、データを徹底的に活用し、単なる小売業ではなく、リテールAI企業として、製造、物流、小売りをデジタルで結ぶ新たな小売り・サービス業の形を作ろうとしているのです。

だからトライアルGOの単店を見ても、見た目には「特徴のない店」と映るのであって、その本質は分からないのです。