表情を決定づける最大の鍵は口もと

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顔の表情でより重要なのは、目のまわりではなく、口角

ちなみに、「目は口ほどにモノを言う」ということわざがありますが、私の実験の結果では、目はそれほど“モノ”は言いませんでした。同じ人の顔の写真で「無表情のとき」「笑ったとき」「怒ったとき」「恐れているとき」の目もとと口もとを入れ替えてみたところ、目もとの表情は、顔の残りの部分の表情に強く影響を受けてしまい、もとの表情を読み取れませんでした。けれど、口角周辺の口もとを変えると、目もとを入れ替えた場合ほど、影響を受けることはなかったのです。また、べつの実験では、口もとを入れ替えるだけで、顔全体から受ける印象ががらりと変わることがわかりました。

自分は無意識なのに、人から「いいことあった?」と言われることがあります。実はこれ、口もとを見て相手が勝手に判断したこと。ほんの一瞬の口角の表情が人の印象をよくも悪くもするのです。

とはいえ、常にポジティブな顔をしていればいいかといえばそうとは限りません。相手を怒らせてしまったときなどにニコニコしていたら、さらに怒りを買うことは必至。日本人は特に、他人との共感を重視するため相手の心情に合わせた表情で対応することが大切です。相手が怒っているときは口角を下げて申し訳なさそうな顔=ネガティブ顔をする。そうすると、相手は自分の思いが伝わったと解釈し、怒りの感情が収まるのです。

一方、やってはいけないのが、すぐに表情をひっこめること。作られた表情は長続きしませんから、相手は本心ではないことを見抜き、「こいつは信用できないな」と感じます。ぜひ、“相手の表情は自分の鏡”と思い、自分の気持ちをコントロールしてみてください。自分が楽しめば相手も心が弾み、自分が落ち込めば相手も心が沈みます。「自分は口下手で……」という人も表情ひとつで人の心を掴むことは可能です。コミュニケーションで大事なのは「口数」ではなく「口もと」なのです。

心理学博士、理化学研究所研究員 上田彩子
東京都生まれ。日本女子大学大学院修了。漫画家として活躍する一方、「顔学者」として顔認知に関わる実験・心理学的研究を行う。著書に『ヒトのココロの不思議がわかる ココロ学入門』など。
(構成=堀 朋子)
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