世界のトップ企業と日本企業はなにが違うのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「『企業OS』が強固に設計されている企業ほど、変化に強く、危機に強く、未来を切り拓き、長期で競争力を維持できる。日本では、ソフトバンクグループがこの『OS』の一部を極端に体現する“象徴例”だ」という――。(第2回/全2回)
企業向けプレゼンテーションに登壇したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長
写真=時事通信フォト
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(2025年2月3日、東京都千代田区の東京會舘)

孫正義の「切迫した焦燥感」

前回記事では、ソフトバンクグループ、Apple(アップル)、Exxon Mobil(エクソンモービル)、Delta Air Lines(デルタ航空)、Berkshire Hathaway(バークシャー・ハザウェイ)の5社を「企業OS(Operating System、基本ソフト)」の観点から分析した(参照〈アップルにはiPhoneより大きな強みがある…戦略も社員も一流なのに日本企業が負け続ける「たった1つの理由」〉)。

本稿では、象徴例としてソフトバンクグループの「企業OS」を深掘りした上で、ファイナンス思考7体系=企業OSの“骨格”、テクノロジー戦略3体系=企業OSの“筋肉”、両者の融合=“企業OS”という新しい経営単位の誕生、という順番で、“企業が本当の意味で強くなる構造”を体系的に読み解いていく。

第1部:ソフトバンクグループ――「未来への焦燥」を企業OSへ昇華させた、世界で最も“異質な企業”の正体

ソフトバンクグループほど、世界の経営思想からも、財務フレームからも、事業カテゴリからも捉えにくい企業は存在しない。通信会社でも、投資会社でも、AI企業でも、持株会社でもあるが、どれとも完全には一致しない。

ではソフトバンクとは何か。結論から言えば、「未来への焦燥というエネルギーを、資本と技術を用いた企業OSに変換する、世界でも最も“未来偏重”の企業」である。

ここからは、ソフトバンクという企業を“OS”として徹底的に読み解いていく。

1.ソフトバンクグループの正体は「事業」ではなく「未来への焦燥」である

ソフトバンクグループの歴史は、他の日本企業の歴史とは明らかに違う。ほとんどの日本企業は「現在の事業を守り、周辺を拡張する」という進化モデルを採るが、ソフトバンクグループは創業当初から“未来の支配階層を探し出す”、“そこに全力で賭ける”というモデルを完全に一貫して続けている。

PCソフト流通、インターネット、ブロードバンド、携帯、スマホ、そしてAI。時代の“転換点”が訪れるたび、その最も先端の領域へ真っ先に突入した企業は日本ではほぼソフトバンクグループだけである。

これは単なる先見性ではない。むしろ孫正義という人間の内側にある「未来が来る前に自分がその場所にいないと、取り返しがつかなくなる」という切迫した焦燥感こそが、ソフトバンクグループの企業OSを生み出している。

ソフトバンクグループの行動原理は、恐ろしくシンプルでありながら極端である。未来の支配レイヤー(プラットフォーム)をより早く、より大胆に押さえる。過去や現在の安定は、そのための燃料に過ぎない。この思想が、ソフトバンクを他の日本企業から根本的に切り離している。