今年4月に創設された教育資金贈与非課税制度に、金融機関が沸いている。2013年度税制改正で、祖父母が孫らの教育資金に一括贈与(1人当たり1500万円が上限)すると非課税となる制度に沿い、信託銀行を中心に投入した商品が、当初の想定を数段上回る規模で契約数を伸ばしているからだ。金融関係者によれば、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行の信託銀上位2行が販売する「教育資金贈与信託」の契約数は、8月末までにそれぞれ1万件の大台を突破するとみられ、金融機関の新たな富裕層ビジネスとして火をつけた格好だ。

同制度は1500兆円規模に達する個人金融資産の世代間移転を促すと同時に、子育て世代の教育費負担を減らし、その分が消費などに回り、景気浮揚につなげる狙いで導入された。勝者寄りとされる「アベノミクス」を象徴する税制の創設には、「富裕層優遇」「格差社会を助長する」との批判があった。とはいえ、15年1月に実施される相続税増税に備えた相続税対策の需要も取り込んだヒット商品の誕生に、信託銀以外の金融機関も信託銀に追随し、相次ぎ専用預金口座を設けるなど、制度終了の15年末まで激しい顧客争奪戦が繰り広げられよう。

信託協会がまとめた6月末時点の教育資金贈与信託の契約数は、スタート後わずか3カ月で1万8206件、新規設定額は計1246億円に達した。1契約当たりの設定額は単純計算で約680万円となり、信託銀が主たる顧客に位置付ける富裕層とは必ずしも一致しない。ただ、同信託の取り扱いは、信託銀とはほとんど縁のなかった層の開拓につながっている。三井住友信託、三菱UFJ信託の2行がスタートからわずか5カ月で、同信託の契約数で1万件を突破する勢いを見れば、スタート当初に信託大手4行で制度終了までに計5万4000件を見込んでいた契約数の早期達成は確実だ。

一方で、優良顧客を信託銀に奪われかねない警戒感が、大手銀行などを専用預金口座の獲得に駆り立てている。3メガ金融グループで唯一、傘下に信託銀のない三井住友銀行も7月24日、仏金融大手のソシエテジェネラルから日本法人ソシエテジェネラル信託銀行の買収を発表し、富裕層獲得の強化を打ち出した。教育資金贈与非課税制度の創設とも相まって、金融機関の富裕層ビジネスが一気に熱を帯びてきた。

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