厳選した良書だけを擦り切れるまで読む
歴史のふるいにかけられた良書を、何百回と繰り返し読む。これが私の本の読み方です。この読み方が身についていなければ、今の私はなかったでしょう。
1951年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券入社。78年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村證券事業法人三部長などを経てソフトバンク入社、常務取締役に就任。2022年より現職。
江戸時代末期の儒学者・北尾墨香を祖先に持つ北尾家に生まれた私は、幼少期から中国古典に親しむ環境で育ちました。洋書の輸入販売会社を経営していた父は、折に触れて古典の言葉を引いて幼い私を諭し、歴史・思想・哲学に親しむ素地をつくってくれました。おかげで中学生の時分には初めて『論語』を読み通し、続けて『孟子』『老子』といった名著を渉猟するなど、古典を読む習慣を自然と身につけていました。
その習慣は今も変わらず、読書は日課となっています。仕事や会食を終えて帰宅するのが夜9時頃。そこから深夜1時か2時頃までは、おもに本と向き合う時間です。睡眠は4時間半ほどと少し短いですが、それでも読む時間が足りないと感じています。
時間が限られている以上、読む本は厳選しなければなりません。私が選ぶ本は4つのタイプに分かれます。第1に、歴史のふるいにかけられた古典。第2に、尊敬する人物が薦めてくれた本。第3に、尊敬する人物その人が著した本。そして第4に、私自身が関心のあるテーマについて扱った本です。
近年の出版物では、ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏による『運 ドン・キホーテ創業者「最強の遺言」』(文春新書)が強く印象に残っています。本書は売上高2兆円を超える企業を一代でつくりあげた安田氏が、「運」に関する深い考察とともに、成功哲学を綴った一冊です。
ここでいう運とは、単なるツキの話ではありません。無一文から大きな成功を収め、ともすれば「運が強い」と周囲から評される安田氏ですが、氏は「人によって運の総量そのものに大差はない」といい、さらに「運は自分自身でコントロール可能」として、その方法論を本書で明かしています。
私にとっても運はかねてよりの関心事です。その本質は天から与えられるものではなく、日々の修養と善行によって育てていくものだと信じてきました。本書はその確信をさらに深めてくれた、人生の指南書です。
最新のテクノロジーも私にとって欠かすことのできないテーマです。当社は世に先駆けてインターネット証券業に注力し、近年はWeb3やブロックチェーンを事業に導入するなど、常に革新的な技術を成長の糧としてきました。こうした技術をいち早く取り入れる判断ができたのも、海外で出版された書籍や雑誌などを通じて常に知識をアップデートしてきたからです。その技術が本当に顧客の便益につながるかどうか、徹底的に調べます。
ただし、技術は日進月歩で進化するため、書籍で得られる知識は陳腐化しやすい傾向にあります。その点、古典は時代を超えた普遍の真理を伝えてくれます。歴史書や哲学書から得られる知恵は古びることはありません。さらに、組織論や人材育成など、治乱興亡を生き抜く実践的な知恵も凝縮されています。
2500年以上も前の孔子の教えが今なお人々の心に響き続けるように、古典はいつ手に取っても常に新鮮な示唆を与えてくれます。
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