会社組織や労働に対して忌避感を持つ若者が増えている。だからFIREを、という選択は正しいのか。作家の橘玲さんは「FI(経済的な自立)とRE(アーリーリタイア)は分けて考えたほうがいい。リタイアした後もずっと働きもせず、暇つぶしをするだけの人生なんて退屈なだけだ」という――。(第4回/全5回)

※本稿は、橘玲、樺山美夏『しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?』(文響社)の一部を再編集したものです。

年収400万円で「FIREできるかな」

Q 「FIRE」をして、仕事やお金に縛られない人が正直うらやましいです。ぼくみたいに平凡な会社員には別世界の話に思えますが、ずっと会社に縛られ続ける人生にも耐えられません。40代になったら仕事より趣味のキャンプや山登り中心の生活がしたいのですが、年収400万円でもFIREすることは可能でしょうか?
(20代 ECサイト営業 男性Cさん)

【Cさん】大手企業で働きながら毎月給与の8割を資産運用に回し、30代で7000万円の資産をつくってFIREした人のインタビュー記事をWebで読んだ。いいなあと思った。自分は年収400万円だから、FIREなんてムリだよね?

【AI】FIREの意味を知っておるのかね? 「Financial Independence, Retire Early」(経済的自立と早期退職)の頭文字じゃ。資産運用によって経済的に自立し、運用益によって生活して早期リタイアする生き方のことをいう。

【Cさん】早期リタイアして毎日遊び暮らせるなんて最高だよ!

【AI】そうかな? 人生100年時代に40歳で仕事を辞めたら、残り60年は何をする? 今ではFIREは、仕事を早く辞める「RE」を目指すものではなくなっているぞ。

【Cさん】え、そうなの?

【AI】重要なのは「FI(経済的独立)」のほうで、会社や組織から自由になるために、会社に縛られなくても生きていけるだけの資産をつくることだ。

退職届を書く
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

「FI」だけしてゆるく働き続けるべき

【Cさん】そういえば記事に載っていた人も、セミリタイアしたあと、農作業や資産運用コンサルティングで収入を得ているらしい。人に喜んでもらえることがしたいみたい。

【AI】生活のために働く必要がなくなれば、趣味でやりたい仕事をやればいい。それで誰かに感謝されて収入も得られたら嬉しいだろう。

【Cさん】そういう人生のほうがたしかに幸せそう。いくら自由で時間があっても、誰にも相手にしてもらえなかったら寂しいからね。

【AI】好きなことをしながら収入を得て、資産運用でお金にも働いてもらって、両輪で稼げるようになれば、老後もゆたかに暮らせるはずじゃ。

【Cさん】そうか。無職になった後の生活まで想像したことなかった。

【AI】FIREの「FI」だけしてゆるく働き続けたほうが、お金の心配も孤独の不安もなくなるぞ。